「・・・いつもありがとうね。きっとあの子も喜んでるわ」 

あいつのお母さんがお茶を出してくれて、そっと私の隣に座った 
遺影の顔はいつもと変わらないあの笑顔。 
「あの子も水臭いわねぇ。こんな可愛い彼女がいるのに、私には電話してくれないんだもん、ね?雅ちゃん」 

お線香の匂いがする部屋の中で、お母さんの明るい声がやけに寂しく聞こえる・・・ 

「まぁそうかもね、いちいち母親には彼女の事なんて言わないだろうし」 

本当はみんなで来たかった。ちゃんとお墓参りしたかったけど・・・ 

誘っても、誰もついてきてくれなかった。 
みんなあいつがいない事と向き合わなくちゃいけないから嫌なのかな・・・? 
私だって嫌だよ。 
簡単に受け入れられるわけないじゃない。 

¨ザァアァアアァアァ・・・¨ 

・・・雨、か。 

予報じゃ晴れるって言ってたのに・・・ 


「あら大変、ちょっと待ってて。洗濯物取り込んで、あと雨戸もしめなきゃ」 
「手伝います」 
「いいわよ。お客さんにそんな事させられないわ」 


・・・一人になった。 
あいつの写真、見れない。見たくない。 


¨・・・え、と、ちょっと時間いいかな?¨ 

・・・・・・いま、誰か私を呼んだ? 

¨君とは初対面、じゃないな。こういう形で話すのははじめてだけど¨ 

そう言われたら、なんだか聞いたことがある様な声だ。 

¨ここで姿を見せてもいいんだがあいつの母親が戻ってくるかもしれない。 
 どこかの部屋に移動してくれないか?¨ 

いきなり話し掛けてきてなんなのこいつ 
っていうかどうして姿が見えないの? 

1 あんた誰よ? 
2 言われたとおりにしてみる 



不思議だとは思ったけどなぜかこの声からは悪い感じがしなかった。 
「わかった。言う通りにしてあげる」 

・・・え、と。一番近いのは・・・あそこか 

・・・あいつの部屋・・・ 

そこ以外に部屋はなかった。まさかトイレに入るわけにもいかないし、仕方ないか 

「・・・・・・」 

あいつの生まれた家の、あいつの部屋。 
もう長い間使われていないからかほこりっぽかった。 

¨悪いな・・・ちょっとおどろかしちゃうかも¨ 

目の前が光った、と思ったら 

・・・思ったら・・・! 

「あ、ああ・・・・・・!」 
「・・・よう。前にも会ったな、雅・・・ちゃん」 

やばい、泣きそう。 
もう会えないって、お・・・も、って、たから・・・! 

でもよく見たら何か変。目の色が明るい・・・確か前にも会ったことがあった 

1 たまらず抱きつく 
2 泣くのをこらえて話し掛けてみる 
3 向こうからそっと抱きついてきた 



「う、うわっ?!」 

たまらず私は抱きついていた。 
だって・・・もう会えない人にまた会えたんだよ 

考える前に体が動いてたんだ 

「もう離さないから」 
「・・・・・・・・・・・・」 

・・・本当はわかっていたのかもしれない。こいつが、良く似ている誰かだって。 
前にも感じた違和感を思い出してしまった。 

でもそうせずにはいられなかったんだ。 
「・・・あんた・・・誰?」 
「おれは・・・だ。またの名前を悪魔・・・だ」 

名前の部分らしきところの発音が聞き取れなかった。 
・・・悪魔、か。おそらく、人間の耳じゃ名前は正しく聞き取れないのかもしれない。 

「実はあいつから君に伝えてくれって頼まれた事があるんだ」 
「・・・あいつから?」 
「ああ・・・それはな・・・ 


1 俺がいなくてもしっかり生きろよ、だと」 
2 どうしても辛かったら、実家の俺の部屋の机のある引き出しを・・・」 
3 ・・・なんでもない」 



どうしても辛かったら、実家の俺の部屋の机の引き出しを・・・だって」 

あった、これだ。 
とても小さい机、もう長い間放置されてた様な・・・ 
「・・・これ?」 

いくつかあった引き出しを全て開けて、とうとう最後で見つけられた。 
「・・・・・・え?!」 

ちょ、何よこれ。 
「なんかあいつらしい¨形見¨だなぁ」 

引き出しの中にあったのは、 
大きなサイズのコピー用紙いっぱいに写った・・・あいつの渾身のバカ顔だった。 

手紙か何かあると思ってある程度泣く準備はしてたから、まさかこんなものがあるなんて思わなかった。 

「ここ開けろって言ったの?」 
「あ、ああ・・・何を考えてんだあいつは」 

・・・ありがと。おかげで、少しだけ笑えそう 


「・・・さて、時間だ」 

その人の体が薄くなっていく。 
「どうしたの?!ねえ」 
「宿主が死んだからおれも間もなく消えてしまう」 
「あ、あなたも死んじゃうの?!そんなの・・・!」 
「いいんだ。あいつの大切な娘に、最後の願いを届けてやれた。満足だよ・・・」 

誰かわからないけど、 
もう届かないはずだったあいつの願いを届けてくれたんだ。 
「・・・ありがとう」 
「さて・・・あいつのとこへ行くか、じゃあな雅ちゃん。がんばれよ・・・」 


その人が消えてしまうのを見届けてから、あいつの形見をもう一度見てみた。 
そして何気なく裏返すと・・・あれ?裏に何か書いてある。 
そこには汚い字でこう書いてあった。 

 『辛いとき、苦しいとき、そんな時はこの顔を思い出せ』 

・・・そうだ、あいつの愛情表現はこうだったっけ。 

ありがと 

あなたの¨想い¨・・・ちゃんと受け取ったから。 
ありがとう・・・大好きな人 


・・・・・・さよなら・・・