よほど浮かない顔をしていたのか、萩原が俺に声をかけてきた。 「ジミー、何か暗いがまたストーカーが増えたか?」 「いや、違う。中等部の栞菜ちゃんの誕生日を祝ってあげたんだ」 「それで金でも大量に支払わされたか?バイトしてるんだからいいじゃないか」 「それならまた働ければいいだけだ。誕生日にな、やめとく…」 俺は萩原との会話の中でうっかりと口を滑らせ、思い出すと恥ずかしい限りの栞菜ちゃんの誕生日の事を知られてしまうところだった。 あれは決して人には知られたくない、ましてや男には。 お前にそんな趣味があったか、と地味で通してきた人生が狂いかねない。 栞菜ちゃんがああいう嗜好の持ち主だとわかっていたが、まさか学校から女装させられるとはな。 あれは、栞菜ちゃんの誕生日の日、放課後のことだ。 下駄箱に入った手紙をみつけ、それを読んだらある場所に来てほしいとあった。 その場所は 1 体育館倉庫 2 栞菜の教室 3 学校の裏庭 体育館倉庫か、この時は何も知らずにノコノコとでかけた。 『ジミー先輩へ 今日は私の誕生日って知ってましたか?いきなり教えたからたぶんプレゼントは用意してないと思います。 なので体育館倉庫で待つのでそこでお祝いをしてほしいです』 と書かれていた。 確かに初耳だからプレゼントは何も用意してない。 彼女の一人なんだし、祝わなくてはなるまい。 だが、我ながら彼女の一人ってフレーズも如何なものなんだろうな。 俺は体育館倉庫まで来ると、栞菜ちゃんと呼びかけながら中に足を踏み入れた。 倉庫内は薄暗く、目が慣れるまではどこに何があるかわかりにくいから歩くのも覚束なくなる。 「栞菜ちゃん、どこだい?言われた通りにきたよ」 「先輩、ここです。こっちです」 奥から声がするのでそっと進んでいくと、 1 急に背後から何者かに眠らされた 2 犬の着ぐるみをきた岡井ちゃんに遭遇 3 かっぱ愛理に遭遇 4 つまづいて床に倒れた つまづいて床に倒れた。 うつ伏せ状態で倒れた俺の前には、足があり顔をあげるとそこには栞菜ちゃんがいた。 「か、栞菜ちゃん。そこにいたのか。探したよ」 「先輩、わざわざこんなところまで来てくれてありがとうございます」 栞菜ちゃんは目線をあわせる為、しゃがみこんで顔を近づけてきた。 本人は意識してみせているのか知らないけど、しゃがんだおかげで俺にはパンツが丸見えだったりする。 だが、元々暗い倉庫内で目が慣れても色などはわからない。 惜しい、ここがせめて明るい場所でないことが悔やまれる。 「ジミー先輩、どこみてるの?」 「あっ、あっははは。大したところじゃないよ」 「もう私のパンツみてるのわかってるよ。スケベ」 栞菜ちゃんは人差し指で俺の額をつつき、微笑んでくれた。 栞菜ちゃん、可愛いというより綺麗になったな。 将来はとんでもない美人になりそうな気がする。 「先輩、今日はね、これ着て祝ってほしいな。そしたらパンツ覗いたこと許してあげるね」 「うん、わかった。で、何を着ればいいのかな?」 栞菜ちゃんが手渡してきた荷物を受け取り、俺は場所を移動して着替えだした。 そこでうっすらと射す日の光にかざして衣装をみると、女物が一式揃えてあった。 1 学校の夏物の制服 2 学校の体操着、ブルマ 3 ゴスロリ うちの学校の夏物じゃないか。 有名なデザイナーに依頼したおかげで、生徒からはぼちぼち評判の良いと聞く。 俺も三年間みてきて公立より可愛くて好きだが、それは女の子が着るからで俺が着ても可愛くない。 しかし、栞菜ちゃんの頼みとあれば着てあげなくてはな。 俺はもうテキパキと着替え、自分が着てる姿を想像しないよう頑張った。 「先輩、着替え終わりましたか?」 「うん、バッチリ」 「あとカツラがあるからそれもつけてね。私、期待してるよ」 「う、うん…」 荷物の入った袋からカツラを取り出し、どっちが前かと調整しながら被り終えた。 「完璧だよ、バッチリだ」 「じゃあ、私と手を繋いで。今からまた移動しよう。次は中等部の教室だよ」 栞菜ちゃんの場所まで戻り、二人で手を繋いで歩いて出ていくことになった。 はて、何のためにここまで来たのかな? 着替えるならここじゃなくてもよさそうなものだが。 「先輩、今日はお祝いしてくれるの先輩だけじゃないんだよ」 「え?」 ここで振り向いた栞菜ちゃんの顔に不気味な笑みがあった。 な、何だ? いきなり空気が変わった気がして、少し緊張が走る。 と、突然… 1 犬の岡井ちゃんが出てきた 2 かっぱ愛理にわぁ!!と驚かされた 3 舞ちゃんが影から現れた ペタペタ、ペタペタ、ペタペタ。 子供が床を裸足で歩くみたいな間抜けで可愛い音がしてきた。 ペタペタ、ペタペタ、ペタペタ。 だが、緊張をしているせいではっきりした位置が掴めず、音が大きくなって近づくのを聞いている事しか出来ない。 「か、栞菜ちゃん」 栞菜ちゃんはどこで聞いたかわからないが、確か相当な怖がりだという話だ。 その栞菜ちゃんが笑っていられるのだから安心していいのか。 俺が身を強張らせた瞬間、背後からわぁ!!と可愛らしい脅かし方をされて振り返るとかっぱの着ぐるみを着た愛理ちゃんがいた。 本人は怖いでしょうと言わんばかりの顔なのに、愛理ちゃんは元が愛くるしいから全然怖くない。 一瞬は驚いたものの、すぐに笑顔になってしまう。 「先輩、驚かずに笑うなんてあんまりです。これでも一所懸命なんですから」 「ごめんごめん、可愛いからついね。栞菜ちゃんも笑ってるじゃん」 「栞菜までひどい」 「だって愛理が可愛いから」 愛理ちゃんは可愛いと言われて機嫌を直してくれたが、まだ驚かないことには納得しきれない様子。 この後にはまだしかけがありますから、と言ってペタペタと去っていった。 まだあるのかよ、こんなしかけが。 俺と栞菜ちゃんが出口目指して歩いていくと、次に出てきたのは 1 カエルの着ぐるみを着た早貴ちゃん 2 犬の岡井ちゃん 「わ、わぁ!!」 影から現れたのはカエルの着ぐるみを着た早貴ちゃんだった。 脅かそうとこちらも頑張っているのに迫力にかけ、すぐに可愛いと思わざるをえない。 可愛いばっかりに脅かす役は向いてなさすぎる。 「先輩、何で笑うんですか!!」 「何でって可愛いからついね。カエルの着ぐるみ似合ってるよ」 「先輩の言う通り、なっきぃ可愛いよ」 「えへ、そうかな。って違うの、驚かないとやった意味ないじゃん」 負けず嫌いの早貴ちゃんは頬をふくらませてちょっとお怒り気味。 これもまた可愛いんだけど、可愛いなんて言ったらからかってるんですかと怒りそうだからやめておいた。 早貴ちゃんは次こそは必ずとか言いつつ去っていき、気付けばドアの前まで来ていた。 もう出口とはあっという間かな、さて行くかとした時、またもや背後から叫び声がした。 「うわああああ!!」 驚き、俺は慌てて振り向くと犬の着ぐるみを着た岡井ちゃんがいた。 今のが一番驚いたぞ、マジに… 「ちさと、やりすぎだよ。栞ちゃんが驚いてるじゃん」 隣からひょっこりと舞ちゃんまで顔を出してきた。 みれば、舞ちゃんの言う通りに栞菜ちゃんが泣きそうな顔でいる。 しかも俺の腕にしがみついている。 「予定だとそんな声ださないはずでしょ。怖いよぉ」 しがみつく栞菜ちゃんを前にして、舌を出して「やりすぎたかな」と反省の色をみせる岡井ちゃん。 イタズラ好きな岡井ちゃんらしいといえばらしいけど、今回ばかりはやりすぎかな。 「栞菜、ごめん」 「いいの、私が怖がりなのがいけないんだから。それにこれは私が言い出した事だし」 栞菜ちゃんが自分からこんなお化け屋敷みたいな事しようって言い出すとはな。 怖がりがこんな事しようと言い出すとは普通考えられない。 何か理由でもあるのかな? と、俺が不思議がっていると前にいた岡井ちゃんがうわっと声をあげ、両手で顔を隠してしまった。 何だ、どうしたよ。 「先輩、スカートの前がもっこり…」 「じ、ジミーちゃん、あんたは栞ちゃん相手に何してるの」 「えっ?」 自分でもびっくりだ、いつの間にか栞菜ちゃんの胸が押し当てられているうちに息子は元気になっていた。 しかも不自然にスカートが盛り上がっている。 「わ、私はいいよ。先輩が私を好きだから反応したんだもんね」 それもそうなんだけどな、睨んでる舞ちゃんの視線が痛い。 1 舞ちゃんのまな板でも当たれば元気になるよ 2 舞ちゃん、次デートしてあげるから怒らないで 3 ほっといて次 4 岡井ちゃんにもっと間近でみるかい?と迫る 5 愛理ちゃん、きゅうりいる? 6 カエルの早貴ちゃん、止まり木いるかい? 7 栞菜ちゃん、後でしよう 俺は恥ずかしがり顔を背ける岡井ちゃんに狙いを定め、股間をみろとばかりに迫る。 「岡井ちゃん、さぁ恥ずかしがらずに間近で見物するかい?」 「せ、先輩、恥ずかしいよ。やめてよ」 「さぁ、私のおいなりさんだ。さぁ」 「や、やめて。ちさと、そんなおいなりさんは嫌だ」 岡井ちゃんは逃げられない隅でとうとうしゃがみこんでしまった。 俺のあまりの調子にのった行動に見かねて、舞ちゃんが「馬鹿」とおいなりさんを蹴りあげた。 俺はその場に倒れ、引きずられるように倉庫から連れ出された。 外に出た俺たちは中等部の教室に移動した。 教室は既に誕生日会の準備が出来上がった状態になっている。 「栞菜は一人っ子なのは知ってますよね。それに栞菜って転入生なの知ってました?」 教室につく前、愛理ちゃんからいわれた新事実に驚かされる。 一人っ子なのは知っていたが、まさか転入生だったとは知らなかった。 「だから皆でお祝いしたいって、栞菜に提案したんです。栞菜は学校に馴染もうと去年は大変だったのみてたんで」 愛理ちゃん、君はいい友達だね。 目頭が熱くなるのが自分でもわかり、涙を流さないよう押さえていた。 悔しいが、俺はこんな事考えてあげられていなかった。 「いい誕生日会にしよう」 誕生日会はささやかだけど、とても楽しい雰囲気の中始まった。 お菓子やジュースを飲み食いしながら、ハッピーバースデーを歌い祝う。 ありがとうと涙を流し喜ぶ栞菜ちゃんは本当に嬉しそうだ。 「私ね、先輩と一度でいいからデートしたいんです。怖がりだけど、お化け屋敷で先輩となら平気かなって。 でも、無理はしたくないから皆に頼んだんです」 栞菜ちゃんのお願いを聞き、皆がそれを叶えてあげるなんていい友達ばかり持ったんだね。 俺も栞菜ちゃんにコスプレ以外で祝ってあげたいな。 1 栞菜をデートに誘う 2 栞菜と誕生日会後におでかけ 3 栞菜と記念撮影 俺は皆がいることだからと、記念撮影を提案した。 皆、笑顔で頷いてくれ、誕生日会をするのでカメラを持っていた愛理ちゃんに借りて一枚を撮った。 しまった、俺は女装して写っているんだったな。 ただ、栞菜ちゃんの嬉しそうな顔をみていたら、それも小さい悩みかと思った。 「先輩ならこういうの似合いますね。またやってもらいたいです」とは愛理ちゃん。 「先輩、ちさとより女の子みたい」と複雑そうな岡井ちゃん。 「私のカエルの着ぐるみより笑えるじゃないですか」と不満げな早貴ちゃん。 「ジミーちゃん、私の誕生日はそれ絶対お断りだからね」とぶすっとした表情の舞ちゃん。 この一枚がいつまでも栞菜ちゃん最後の中学生活に思い出に残ることを祈ろう。 皆もいたから特別な事をしてあげられなかったのが残念だけど。 おまけ あれだけなら綺麗な思い出で俺にも残ったはずだが、事件は倉庫に着替えをとりに帰ったときに起きた。 俺は女装したまま倉庫へ向かう途中、あろうことかお兄さんに遭遇してしまった。 中等部をコソコソと動き回り怪しいと注意を呼び掛けた。 「お兄さん、こんなところで何してるんです」 「ん?お前は誰だ。いや、可愛い奴だ」 「馬鹿言わないで下さい。俺です、ジミーです」 「ジミーにまた何か言われたかお嬢さん。あんな奴にはもったいない可愛さだな」 か、完全に女の子だと誤解してるぞ。 しかもハンターの目をして、今にも飛びかかってきそうな気配。 そんな目で俺をみるんじゃない、気色悪い。 「運命を信じるかい?」 「こんな運命は信じたくありませんね。俺はこれでさようなら」 「この可愛さで『俺』口調とはマニアックだな。だが、俺はいける口だ」 「だから、しつこいぞ。俺はジミーだ」 「待て、俺女。お前は俺のものだ。そうなる運命だ」 足の速さはやはり家系なのか、舞美先輩を越す俊足で追い付いてきた。 そして、あろうことか逃げ場のない倉庫の壁に追い込まれた俺。 「待て、待て、お兄さん。俺はジミーだ」 「ジミージミーうるさいぞ。今はお前に恋している」 こうしてお兄さんにキスを奪われ、身も心も傷ついた俺には最悪の日になった。