朝、目が醒めると一件のメール着信があるのに気付き、メールを見てみるとちぃからだった。 
昨日の夜のうちに来たらしく、『明日は何の日でしょう?』という内容だった。 
ちぃの誕生日か、去年はまだ俺たちが仲良くなりだしたばかりで祝うも何もなかったな。 
体育祭で女装してから急激に進展したんだ。 
アイツとは本当に一年間で思い出がたくさん出来たな、出来る限りのお祝いをしてやろう。 
といっても、俺は今日まで準備していないから大した事が出来ないけど… 
まずはメールの返事をしないとかな。 
『今日は… 

1 何の日フッフ〜♪みのもんたに聞いてみるな 
2 わかってるよ。梅田先輩の誕生日だろ 
3 あのバンドの新譜が出る日だな 



何の日フッフ〜♪みのもんたに聞いてみるな』、と打ち込んで送信した。 
そして、学校に行くのに制服に着替えをしていると、すぐにメールが返ってきた。 
『みのさんに聞かないとわからないなんて、君はつまらない冗談を言うね。 
ま、でもいつもみたいに期待してるよ』。 
こいつは期待を裏切る真似をするな、というある種の脅迫じゃないか。 
まぁ今までアイツにしてきたサプライズを考えたらそうなるか。 
今日はまともに学校行く気なくなってきたな〜。 

「  、早くしなさい。栞菜ちゃんが迎えにきてるわよ」 

俺がベッドに座り、頭を抱えているところに一階の母親から急かす声が聞こえてくる。 
しかも栞菜ちゃんが既に下で俺を待ってるらしい、相変わらず朝早いな… 

「せんぱぁ〜い、早くして下さい。遅れちゃいますよ♪」と、栞菜ちゃんの弾んだ声までしてきた。 
いつからだろうな、うちの母親が有原さんから栞菜ちゃんなんて呼ぶようになったの。 
今ではちぃ、舞美先輩、に次ぐ嫁候補として見てるようで、誰が本命なのと根掘りはほり訊いてくる。 
時間がない、とにかくちぃに家で用意できるプレゼントをみつけないと。 

1 MDに音楽と自分の言葉を吹き込む 
2 古くさいが手紙を送る 
3 清水先輩からパクった下着に履いてと書いた紙をつける 

4 桃子先輩と同じくキス 



最近、私はジミー先輩と毎日学校に通っている。 
もちろん帰りも一緒が多いけど、毎日とはいかないのがちょっぴり悲しい。 
でもいいの、ジミー先輩が私の騎士になってくれてるんだから。 
今日は嬉しすぎて早起きしちゃったから、先輩を逆に迎えに行っちゃおう。 
先輩のお家の前に着くと、私は呼び鈴を押したいのに指先が震えてまともに押せるか心配。 
先輩、私来たよ。 
あなたに会いたいから待ちきれずにお家まで来ちゃった。 
あぁん、ダメ〜無理だよ…無理無理…ここまで来たのに引き返しちゃおうかな。 
先輩のお家の前をウロウロしていると、玄関が開き、もしかして先輩がと思い顔をあげてみた。 
すると、「あら〜栞菜ちゃん。いらっしゃい」と未来のお母さんがごみ袋片手に出てきた。 
「お母さぁん。おはようございます」 
「ふふっ、いいのよ。そんなに改まらなくて。あの子ならまだ朝食も取ってないんだから。上がって待ってなさい」 
「え…そんな、悪いです。私はここで先輩待ってますから」 
「いいのよ、リビングにいなさい。お茶くらい出すから」 
どうしよう、私ジミー先輩のお家に来た事あっても上がるのは初めてだよ。 
あぁ〜顔が赤くなるのが自分でもわかる。 
頬っぺたが熱い。 
呼吸を整えて先輩のお家に上がり、リビングを見渡す。 
ここがジミー先輩のお家の中なんだ〜想像通りのいいお部屋。 
自然と笑顔になっちゃう。 
「あら〜そんなに固くならないで。くつろいでよ」 
無理だよ、お母さん。 
だってジミー先輩の匂いがして、落ち着いてられない。 
「待ってて。バカ息子に声かけるから」 
ふふっ、ジミー先輩が早く降りてこないかな〜。 
私は身近にあった犬のぬいぐるみを抱いて、先輩が降りてくるのを待つことにした。 

俺は一階にいる栞菜ちゃんに少し待って、と伝えて慌ててCDをMDに録音した。 
曲はあの名曲。 
ちぃは最近英語に興味を持ち出したし、洋楽なら英語の勉強にももってこいだからいいだろう。 
ずっとそばにいてほしい、そんな俺の想いが伝わったらいいな。 
曲を録音中、それだけでは味気ないと俺は普段言えない感謝の言葉も録音することにした。 

「お待たせ、ちょっとやることあって」 
「ううん、いいの。ジミー先輩くるまでお母さんともお話できたから」 

俺が一階に降りるとうちの母親と栞菜ちゃんが楽しげに談笑していた。 
栞菜ちゃん、すっかり馴染んでるな。 
俺は栞菜ちゃんの視線を常に浴びながら、朝食をとった。 
俺が食っているのがそんなに面白いものなんだろうか? 

「先輩、何をしてたの?」 
「大した事じゃないよ。放課後にやる用事の準備かな」 
「どんな事するの?」 

人目を憚らず、栞菜ちゃんは登校する生徒たちの前でも俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。 
抱きついてくることになるわけだから、当然あのたわわな胸も体にぴったりくっついている。 

「うちのクラスでイベントするからそれでね」 
「ふぅ〜ん。ねぇ、放課後見に行っていい?」 

1 ちょっとだけならいいよ 
2 全然関係ない場所を指定して自分はトンズラ 
3 キスして、今日は我慢して 



俺は答えをはぐらかしながら、人気がない草むらまで栞菜ちゃんを連れ込んだ。 

「どうしてこんなところに来たの?」 
「今日の放課後の事だけど話せないんだ」 
「何で、何で?」 

栞菜ちゃんは自分に話してくれない事に不満を感じるようで地団駄を踏んだ。 
すがるような表情で俺を上目遣いに見るなんて反則だ、そんな表情されたらちぃの誕生日祝いたいからと本当の事を話してしまいたくなる… 
だから、俺は栞菜ちゃんにキスをした。 
不意の出来事に栞菜ちゃんは心の準備が出来ていなかったか、唖然とした顔で停止していた。 

「せ、先輩…」 
「今日はこれで我慢してね」 
「は、はい」 

顔を真っ赤にした栞菜ちゃんはフラフラした足取りで中等部の校舎に歩いていった。 
大丈夫かな… 
「おはよう」と皆が挨拶しあい、賑やかに1日が始まろうとしている。 

「おっは〜よん。ジミーっち、今日は何の日フッフ〜♪」 
「おはよう」 
「あっさりしてるね、君焦らしすぎ」 

ちぃはスキップしながら俺に近づき、あのたれ目スマイルでメールと同じ事を訊いてくる。 
本当に期待してるな、これはわかってると言ってやった方がいいのかな。 

1 みのもんたにマジに聞いてくる 
2 いいからいいから、ジミーを信じて 
3 ちぃの誕生日だろ 



「いいからいいから、ジミーを信じて」 
「またそれ〜今日の事は期待してるんだからね。お願いしますよ、ジミーさん」 

ちぃは少しはぐらかされてガッカリしたみたいな顔をして席についた。 
ちぃの周りはいつも人が集まって騒がしく、今日も男女問わずちぃを囲んで話している。 
そんな俺の視線に気付いたか、隣の梅田先輩が俺に話しかけてきた。 

「徳永ちゃん人気あるよね。可愛いし面白いから」 

あっ私には負けるけどスタイルもいいよね、と付け足した。 
それには苦笑しつつ、俺は頷いた。 

「人気ありますね」 
「他人事みたいに言わないでいいよ。徳永ちゃん、大事な人なんでしょ?」 
「ま、まぁ…でも、梅田先輩だって大事な…」 

大事な人ですといいかけて、梅田先輩に人差し指で口を押さえられてしまった。 

「今日くらい徳永ちゃんオンリーになりなよ。大事な人は。そのかわり、明後日は楽しみにしてるから」 

と、物分かりのいいセリフを言い、耳元に息を吹き掛けてきた。 
油断も隙もないな、この先輩は。 
先輩の誕生日もしっかり祝ってあげないと、そう誓い俺は普段通りに過ごした。 
そして、放課後… 
ちぃを呼び出す前に俺はケーキを用事することにした。 
そのケーキは 

1 グラウンドいっぱいに描かれた世界一のケーキ 
2 近所のケーキ屋さんで買ってきたケーキ 
3 ちぃは甘いの苦手だしおーどんかな 



ちぃの好きなおーどんで代わりにする。 
甘いものは苦手だし、おーどんなら泣いて(は大げさか)喜ぶだろう。 
おーどんは昼休みに脱け出して買ってバッグに詰め込んである。 
俺はちぃに気付かれないよう屋上に上がり、ちぃにメールしてここまで呼び出すことにした。 
『ちぃへ 
 君が気になっていた今日が何の日かみのもんたが答えを教えてくれたから、俺の答え聞きに来て』 
ちぃはそれに『ジミーっちの答え楽しみ〜』と返し、すぐに行くと締め括ってあった。 
俺はその間に、三角帽子を被り、手にクラッカーを持つとちぃがドアを開けるのを今か今かと待ちわびた。 
五分後、「ちぃ〜っす、ジミーっち」とちぃがドアを開け放った。 
俺はその瞬間、おめでとうとクラッカーを鳴らした。 
パァン、と爆発音を放つと、ちぃはびっくりして戸惑った。 

「俺の答え。今日はちぃの誕生日」 
「あ、あたり〜」 

ちぃは俺にジャンプして抱きついてきた。 
それを何とか受け止め、しっかりと抱き締めた。 
耳元で囁くなんてキザだなと自嘲したが、俺はちぃにおめでとうと囁いた。 

「ありがとう…焦らすのは禁止だぞ。ちょっと、ほんのちょっと心配したんだからな」 
「悪かった。黙っていて、放課後に祝ってやろうって考えてたからさ」 
「今日はどんな計画だい?」 

バッグから俺はおーどんとMD、ウォークマンを手渡した。 

「何これ?」 
「おーどんは家に帰って食べろよ。MDはまぁ今聞いてみな」 

俺はウォークマンをセッティングし、ちぃに手渡す。 
ちぃはイヤホンをつけ、曲に耳を傾ける。 
朝、録音した曲はスタンドバイミー。 
その曲名をそのまま訳せば、僕のそばにいて――― 
夕闇が俺たちを包みこむ中、スタンドバイミーが流れる。 
ちぃは俺の肩に頭をのせ、スタンドバイミーが終わるまでそうしていた。 

「いい曲だね。ジミーっちがこんな曲聞くなんて意外」 
「意外だろ、自分でも意外だもんな。あのさ、二曲目も聞いてみて」 
「もう一曲?もういいって。二人の時間がもったいないよ」 
「とにかく聞け」 

俺は二曲目を再生させ、ちぃは渋々イヤホンをつけ直し、そのまま聞き入った。 
『ちぃへ 
 いつも俺の隣にいてくれてありがとう。 
 いつも笑顔をくれてありがとう。 
 いつも俺の為に何でもしてくれてありがとう。 
 そんな君が俺は世界一好きです… 

1 また付き合おう 
2 目を瞑って。とっておきのプレゼントあげるから 
3 え〜上杉辰也は浅倉南を愛しています 



録音する時に大体どれくらいであのセリフが出るか、計算していたが自分でもいつ来るか緊張していた。 
ちぃが目を見開き、隣の俺の顔を見つめてくる。 
俺は無言で頷き、目を瞑るよう促す。 
ちぃがゆっくりと目を瞑ったのを見て、俺は唇を重ね合わせた。 
舌を絡めることもなかったけど、とても濃厚なキスだったように思う。 

「ちぃ、誕生日おめでとう。これからもよろしくな」 
「うん…」 

俺たちは手を繋ぎ、暮れ掛かった空に浮かぶ星を眺めながら、いつまでもこうしていたいと思った。 
来年もまた一緒にお祝いしような、ちぃ。