¨なんだよ早貴。さっきからずっと電話してきて¨ 
「だって帰りが遅いから心配なんだもん」 
¨大丈夫だよ。残業だから。もう少ししたら帰るよ。じゃあまたな¨ 

電話を切る前に少し間をおいて 

¨……愛してるぞ。早貴¨ 

もう。あの人ったら…恥ずかしくなるじゃない。 
きっとお腹ぺこぺこで帰ってくるだろうからおいしいご飯作って待ってなきゃ。 

作ってるのは自信作のカレー。 
あの人はシチューの方が好きだったけど、私のを食べたらカレーの方が好きになりそうだって言ってくれた。 
嬉しい。あの人に喜んでもらえることが…何よりも。 

まだ信じられなかった。あの人が私を選んだこと… 
「早貴は俺がずっと支えてやる。心配なんていらない」 
この言葉覚えてるよ。 
「できた♪」 
味見してみたら完璧だった。食べて喜んでくれたらうれしいな 

…なんか急に眠くなってきちゃった。 
私は鍋の火を止めてソファーに横になった。 


「早〜貴♪」 

…ん、この声、あの人かな。 
いけない。すっかり寝ちゃったみたい。 
それにしても不思議。急に眠くなるなんて 


「疲れたか?無理もないな、週末はお客さんがいっぱい来るからな〜」 
……え?お客さん? 

目をあけると私はぜんぜん知らない場所にいた。 
「……ここ、どこ?」 

あの人の家にいたはずなのに。 
「どこって…自分たちの家だよ。寝呆けてるのか?」 

普通の家とはちょっと違うみたい。 
目の前にはあの人がいたけど、髪の色も黒くなっててメガネかけててちょっと真面目っぽくなってた。 
「その格好…どうしたの」 
「お客商売をやるには印象が大事だって言ったの早貴だろ。おいおい大丈夫か?」 
黄色いエプロンをしたあの人はなんだか落ち着いて見える。 

ただ格好のせいだけじゃない、なんとなく年齢を重ねて出た落ち着きに見えるけど… 

1 ここ、どこなの?と尋ねる 
2 不安になってきたから甘える 
3 奥から騒がしい声がする。気になるなぁ 



なんだろう、何か奥から騒がしい声がする… 
「パパ〜ママ〜もうおみせおわった?」 
元気よくドアをあけてちっちゃな女の子が走ってきた。 
「もう終わったぞ。よーしおいで、だっこしてあげる」 
「や〜。きょうはママがいいの〜」 
「はっはっはっ、そうか。でもパパがだっこしたいな」 
「や〜!ママにだっこしてもらうんだもん!」 
「もう。主張が強いな。まるでママのあの時みたい…っと、悪い。口が滑ったな」 

ま、ママ?私を見てママって言ったの。 
「あのときってなあにー?パパ〜」 
「はっはっはっ、まだ意味が分かるには時間がかかるな」 
「ふぅ〜ん。ママだっこして」 

ま、まって、いきなり言われてもぉ 
この女の子、なんか小さいころの私に似てる。娘だから当たり前なのかもしれないけど 

1 だっこしてあげる 
2 パパにだっこしてもらいなさい 
3 二人でだっこする 



「私が作るね」 
「カレーか?」 
「よく分かったね」 

あの人は後ろから私にぎゅっと抱きついてきた。 
「分かるさ。早貴がきっかけでカレーが好きになったんだから」 

「離して。料理できないでしょ…」 
「やだ。なんかきょうの早貴はいつもより可愛いから」 
「もぉ、離してってば〜」 

だんだん実感がわいてきた。ここは未来、あの人と私が結ばれた未来だって。 
だってその愛のかたちが目の前にいるんだもん… 
私にもあの人にも似てるその女の子。 

「パパもママもひとめをはばからずよくやるね〜」 
「うらやましい?ママはパパが独占しちゃうぞ」 
「はなれて〜!パパはわたしともあそぶの〜」 
「パパも好きなんじゃないか。よーしよしほら」 

女の子を、娘をだっこするあの人。 
もう…いくつになってもああいう無邪気なとこは変わってないんだから。 
待ってて。おいしいカレー作るからね。 


「おいしいよママ〜!」 
「うん、うまい。普段店で出してるのよりうまいな」 

幸せそうな顔…うれしい。 
う、うれ…し… 

「どうしたの?早貴、どこか痛いのか?!」 
「え、いや、な、なんか…うれしくなっちゃって」 
「あ〜。パパがママ泣かした。なかした〜」 

どうしよう。止まらないよ。 

だってうれしいんだもん。あの人は私が本命じゃないって思ってたから。 
私が片想いだってずっと思ってたから…だから… 

一緒になれて、お店ができて、子供までいるなんて。 

涙が止まらないよ。 


「大丈夫?どこか痛まない?」 
「…うん、平気」 
「ママだいじょうぶ?ここがいたいの?」 
私の背中をさすってくれる娘が愛しい。 
「…食事が終わったらちょっと散歩しようか、な?」 

1 いいよ、しよう 
2 ううん。待って。まだしばらくこのまま 
3 あなたと二人になりたいな 



「まだしばらくこのままがいいの」 
「そうか。大丈夫?」 
「うん……」 

あの人の胸にそっと顔を寄せると、私の体を包み込む様に腕で触れてくれた。 
「早貴、いろいろ大変だったけど…やっとこうやって自分たちの店が持てたな」 
「パパ〜ママ〜」 
「娘もできた。毎日忙しいけど、幸せすぎて怖いくらいだ」 

あの人のぬくもりと、娘の小さなぬくもり。 
これが、私の未来… 

「…早貴?」 


私はいつの間にか眠っていた。その幸せの中で 

「ママ寝ちゃったみたいだな」 
「ママ〜おきて〜」 


「おはよう。早貴。もうこんな時間だけど」 
「ん〜……マネージャーさん」 

目を覚ますとそこは見覚えのある場所。あの人の家だった。 
あの人、マネージャーさんは私をしっかりと抱き締めている。 

髪の色、見た目、間違いない。マネージャーさん。 
「…お腹すいてない?カレー作ってあるよ」 
「もう倒れそうだぜ。一緒に食べよう」 

…よそってあげたらさっそくかぶりついてる。うふふ、もう 

「これなら店が開けるよ!うまい!」 
「……………」 
「どうしたの?」 
「…その髪の色、印象よくないと思うよ。お店やるなら黒くした方が印象いいかも」 
「あははは、そうだな。よく上司から言われるよ。俺は黒髪の方が印象いい顔立ちだって。でもやだ、俺はこの色が気に入ってるから」 
「メガネも似合うかも」 
「え〜?やだよ。アルバムにメガネかけた写真あるけど似合わないって」 


まだ、結ばれたばかり。 
私たちがあの未来にたどりつくのはまだまだ先になりそう。 

「早貴、その黄色いエプロン似合うな。可愛いよ」 
「…ありがと」 

歩いていきたい。 
あなたと、二人で。手をつないで離さずに…