「でさぁ〜、舞美ったらこないだもお弁当作ったくせに忘れちゃってさ〜」 
「あはは、舞美先輩けっこうドジ多いですからねw」 
「しかも財布まで忘れて佐紀ちゃんにお金借りてたんだよ!ありえなくない!?」 
「あはは…そんなにですかw」 
桃子先輩が大げさに思えるほどの身振り手振りをしながら、面白おかしく話してくる。 
表情もクルクル変わるから見てても飽きないんだよな。 
自分が話すの好きだから俺は相槌ばっかりで自分のことほとんど話してないけどw 

家で夕食を食べたあとにこっそり家を抜け出してコンビニに。 
ちょっと前に桃子先輩が言ってたとおり、ホントに近所のコンビニでバイトしてる。 
すぐ帰るつもりだったんだけど思いがけず長居をしてしまって気付いたら桃子先輩が上がる時間。 
せっかくだから、と途中までいっしょに帰ることになった。 
いっしょに歩きながらも桃子先輩のおしゃべりは止まらない。 
それはいいんだけど、親に内緒で出てきてるからまた何か言われそうだな、けっこう時間経っちゃったし。 

「ところでさ…」 
「は、はい?」 
それまで普通だったのにいきなり手を繋がれて身体を密着させてくる桃子先輩。 
「な〜に手繋いだくらいで緊張してんのさw ね、いつにする?こないだ言ってたデート?」 
「え、え、あ、デート、そうですね…」 
いきなり手を繋がれて動揺したのは桃子先輩にはバレバレだったみたいだ。 
それはそうと、そういえば言ってたな、デート。 
忘れてたわけじゃないけど、学校復帰以来色んな子が俺に思い出させようと積極的に近づいてくるから 
記憶の整理でいっぱいいっぱいになってるのは事実なんだよな。 
ちぃや清水先輩、舞美先輩とは…シちゃったし。 
忘れてるわけじゃないけど、どうしても印象が薄まっちゃって… 

「なにその反応、まさか忘れてたわけ?」 

1.わ、忘れてるわけないじゃないですか!いつにします? 
2.その…忘れてました… 
3.そ、それよりそのビニール袋、何が入ってるんですか?と話をそらす 



「そ、それよりその袋、何が入ってるんですか?」 
さっきから気になってたんだけど、仕事上がるときにお店から持って出てきた袋。 
聞きたかったけどずーっと桃子先輩がしゃべりっぱなしだから聞けなかったんだよなw 
「あぁこれ?賞味期限あぶないお惣菜とかたまにもらうんだよね」 
と、袋を開けるとサラダやらフライドチキンやらのお惣菜が満載の中身が見えた。 
「ホントは業者に回収してもらって処分しなきゃいけないから、内緒でねw」 
とウインクしてくる桃子先輩。 
それにしちゃ量が多いような…どう見ても男の俺でも食べきれないような量が入ってる気がする。 
もしかして桃子先輩、見た目より大食い? 
実は裏の顔はギャルメイクしたフードファイターとか? 

「っていうか話そらさないでよ。デートしようってばぁ、デート♪」 
「え、え、あの…桃子先輩、顔が近いです」 
やけに密着してくる桃子先輩。な、なんかドキドキするな。 
「えー、前はこれくらい普通だったじゃん。ねぇってばぁ〜」 
そう言ってさらに身体を寄せてくる桃子先輩。幸いに夜だし、人に見られることはないけども。 
こないだもやけに自分のことを好きかどうか聞いてきたちぃ。 
そういうこともあるから若干の罪悪感がぁ〜 

1.しますから離れてください、近すぎて恥ずかしいです 
2.もうどうにでもなれ、桃子先輩に全てお任せします 
3.俺には他にも大事な人がいます、だからできません 



「わ、わかりました、しますから離れてくださいよ。近すぎて恥ずかしいです」 
「え〜っ、前はこれくらい普通だったのに…」 
桃子先輩はふくれっ面になりながらもようやく身体を離してくれた。 
こんな可愛い先輩に言い寄られて嬉しくないわけがないんだけど、それでも恥ずかしい。 
前の俺はどんな奴だったんだ? 
こんなことされて普通でなんて居られるわけがない。 
何かこの先輩に対しての上手い接し方があったに違いないんだけど…思い出せないなぁ。 

「じゃあ今度の土曜日はどうですか?」 
「えーっとねぇ…あ、その日はバイトかなぁ」 
「じゃあ次の日曜は?」 
「その日もバイトだね」 
「つ、来週の土曜日とか」 
「バイトが入っちゃってるねぇ…」 
「…来週の日曜日は?」 
「……バイトかなぁ…」 

「………」 
「………」 

バイトばっかりじゃないですか!休みとかないんですか!? 
「あーでも、再来週なら土日どっちも休みだよ、そこならいいけど」 
ようやく休みの日を見つけて俺を見上げてくる桃子先輩。 
って再来週!?確かそこってちぃと梅田先輩の誕生日が連続である日じゃなかったっけ? 
「ち、ちなみにそこ以外だとどこかあります?」 
「ん〜…休みの日だとしばらくないかも…」 

1.分かりました、その土日どっちかにしましょう 
2.平日にしましょう、放課後に 
3.何でそんなバイトばっかりなんですか? 



土日はほとんどバイト。いつ休んでるんだろう、この人は。 
「何でそんなバイトばっかりなんですか?」 
「え?何でって言われても…何でだろ?」 
って桃子先輩も分かってないんですか!? 
「やってると意外と楽しいよ?いろんな人に会えるしさ、それでお金ももらえちゃうし」 
「でも土日両方バイトだとキツくないですか?学校も行ってるのに」 
「えーこれくらい平気だって、慣れれば当たり前だよ」 
「え…ちなみに今どれくらいバイトしてるんですか? 
「んー…普通にやってるので週5でー、そのほかに臨時でやったりするの合わせたら週6とか7とか?」 
この小さな身体にどれだけのエネルギーが眠ってるんだろう。 
間違いなく俺よりタフだよな。 
俺もスーパーのバイト始めたけど、丸1日働いたらクタクタだし。 

「ホントに身体大丈夫なんですか桃子先輩?ちゃんと休んでます?」 
「だから大丈夫だって!ほらほら!」 
桃子先輩は笑顔でピョンピョン飛び跳ねてる。 
けどやっぱそんなバイトやってるって聞いたら心配は心配だよな。 

1.デートは外じゃなくて家でにしましょう 
2.何か俺にできること、ありますか? 
3.俺とデートなんかより休んでくださいホントに 



「桃子先輩、俺とデートするよりも休んでくださいよホントに」 
このままバイトやって学校行ってじゃホントに桃子先輩、身体壊しちゃうよ。 
そう思って俺は言ったつもりだったんだけど。 
「平気だってば!もぉは家にいるよりもジミーといるほうが休めるんだからぁ♪」 
「いやそう言われても…」 
「ジミーはもぉのこと信用できないわけ?」 
「そうじゃないんですけど…」 
「もぉはジミーがいるから頑張れるんだからさ」 
えっ?それってどういう… 

「お客さんとかでもさ、やっぱ常連さんになってもぉに話しかけてくれたりする人もいるけど、 
 こうしてもぉの身体のこととかまで心配してくれる人ってあんまりいないからさ」 
「もちろんそれはもぉがそんな掛け持ちでバイトしてるの知らないからなんだけど」 
「もちろんそんなの言わないし。自分で好きでやってるんだし、そんなもぉの身の上話なんて、 
 お客さんにとってはどうでもいいことじゃん」 
「万一疲れてて失敗しても、そんなこと自分の言い訳にしかならないし」 
「だから、バイトはバイトで頑張って、こうして仕事じゃないときはジミーに甘えてさ」 
「ジミーコドモなくせにもぉの前で大人ぶろうとするんだもんw それが面白くてw」 
「もぉがお姉さんっぽくできる相手なんてなかなかいないってのもあるけどさ」 
「舞美とかえりかちゃんとか酷いんだよ、いつももぉのことコドモ扱いしてさ」 
「でもそうやって心配してくれるだけで嬉しいんだけどな」 
「仕事にもジミーにも全力で打ち込んでるんだよ、もぉだって」 
初めて聞いた。桃子先輩が俺のことをそんな風に思ってたなんて。 
もしかしたら、記憶喪失になる前も聞いたことなかったかもしれない。 
最後のほうは照れたのかどんどん早口になっていってたけどw 

「そんなわけでっ♪」 
「わっ!?」 
「ジミーはもぉのことを考えるなら、心配よりもいつもどおり接してくれればいいの!」 
いきなり背伸びして肩を抱き寄せられて、囁かれた。 
仕事にも一生懸命、だけどけっして辛そうな顔はしない。 
桃子先輩は舞美先輩とは違った意味で全力投球してるヒトなんだ、って思った。 

「ホントはさぁ、もっとバイト増やしたいんだけどねぇ…」 
「え、でもこれ以上は…」 
「ほらまた心配する〜。ま、ジミーが心配するからこれ以上は無理しないよw 
 もしジミーがいつも近くにいる、みたいなバイトがあったらもぉ頑張っちゃうんだけどなぁ」 

1.言っていいのかな?俺も実はバイトしてるって 
2.実は近所に住んでる後輩が牛乳配達屋で、たまに早起きするんですよ 
3.デートしましょ、これ以上バイト増やすよりは 



俺が近くにいるバイト、ねぇ…。言っちゃってもいいのかな? 
一瞬躊躇はしたけど、話すことにした。 
「実はですね…誰にも内緒なんですけど、実は俺もバイトしてまして…」 
「マジで!?ホントに!?どこで!?」 
「え、あ、隣町のスーパーなんですけど…」 
「えーどこどこ!?詳しく聞かせて!!」 
予想以上の勢いで食いついてきた桃子先輩に問われるまま、俺はバイトの話を喋らされることになっていた。 
思わず口を滑らせた形だったけど、そのときはコトの重大さが分かっていなかった。 


「今日からここでお世話になる、嗣永桃子で〜す。よろしくお願いしま〜す♪ウフフ」 
…数日後、バイトの控え室に突然現れた桃子先輩は、エプロンを身に着けて俺とちぃにお辞儀してきた。 
まさか本当に入ってくるとは…。 
っていうか、4月早々、俺とちぃって新しいバイトが入って、 
他に新しいバイトが入る余地があるなんて思わなかったんだ。 
何より、桃子先輩の行動力をナメてたというか…。 
「2人とも、もぉと同じ学校なんだよね?よろしく〜♪」 
うわぁ、隣のちぃの視線が痛い。 
よく見ると、桃子先輩も顔は笑顔だけど目の奥にはなんだか炎が見え隠れ…。 
そもそも学校に許可もらってる桃子先輩と違って、俺とちぃは無許可。 
まさかないとは思うけど、桃子先輩が学校にチクったら俺たちが処分されるわけで… 
けっこう大ピンチな状況ですか?もしかして 

1.ちぃをフォロー 
2.桃子先輩にバイトのことを口止め 
3.こうなりゃヤケだ、ちぃと桃子先輩に仲良くしてもらおう 



「えっ…と…前にどこかで会ったこと、ありますよね?」 
「あるある〜、学校でも見たことあるし〜、あとお正月だ!佐紀ちゃんの神社でジミーといっしょにいた!」 
「清水先輩の?あ〜!屋台で売ってた人!?」 
「そうそう!あのときは〜、焼きそばだっけ?そうそう、やってたの〜!」 
お互い見かけたりしたことはあるから、会話の糸口は掴めたみたいだな。 
っていうか、ちぃといっしょにいた俺を目撃されてるのか!? 
それって大丈夫だったのか、俺? 
今もなんかヤバげな雰囲気だし…。 
いやでもこうなったらヤケだ!こうなったら二人には仲良くなってもらうしかない! 
昔は昔、今は今って割り切って! 

「そうだちぃ、この桃子先輩って、梅田先輩の元クラスメートなんだよ!ね、桃子先輩!」 
「あー、えりかちゃんと同じクラスなんだー!どう?ちゃんと勉強してる?」 
「梅さんですか?授業中もすごい面白いんですよぉ〜!」 
梅田先輩っていう共通の話題から盛り上がって、何とか打ち解けられたっぽい。 
仕事になっちゃったら桃子先輩もレジだからちぃとは別だから会話する機会もあんまりないし。 
とりあえずは何とかなった…かな。 


気がかりなのはバイトが始まる前に2人から別々に言われた言葉。 
「『このバイトは2人だけの秘密にしよ』って言ってたのに…ちゃんと後で説明してよ」 
「あの子前に見たジミーの彼女って言ってた子でしょ?ま、もぉも負けないけどね…ウフフフ」 
流石にちぃは約束を破ったことで少し怒ってたし、桃子先輩は顔に出してないけどライバル心メラメラだし。 
これから平和にバイトをしていけるのかな、俺…