めずらしく誘われたと思ったら、まったく。 
「怒るなってば千聖〜。天気予報だってたまには外れるよ」 
「外れるのはしょうがないよ。でもなんでこんな大雨なの?!」 
「俺に怒るなってば…」 

もう。せっかくお兄ちゃんとのデートだったのに。 
車のガラスを激しい雨が打ち続けている。 
「せっかく、キミと二人なのに…な」 
「千聖…」 
ぎゅっ、と助手席に座ってるボクの手を握るお兄ちゃん。 
ああ、顔が近いよ。そんなに見つめないでってば 

「あの、千聖」 
何を言うの?ボクどきどきしてるよ。いや、言わないで。でも言ってほしい 
「雨がやむまでエッチしようか?」 

…………こ、の…! 

「痛い!お兄ちゃんを殴るなんて、お前をそんなふうにしつけた憶えはないぞ!」 
「うるさいっ!」 
勢い良く車のドアをあけて飛び出してしまった。 
お兄ちゃんの声が聞こえたけど無視して雨の中を夢中で走って… 

「うわあすごい雨だ、雨宿りしなくちゃ」 

1 あそこの木の下がいい 
2 あっ傘がベンチにかかってる。借りよう 
3 やっぱり車にもどろう 



やっぱり、もどろう。初めて来たから不安になってきた。 
ここ、お兄ちゃんの思い出の場所なんだって。 

ボクに良く似た娘との思い出の場所だって言ってた。 
でも話を聞かせてもらうたびにボクとはぜんぜん違うって思う… 

いつも素直でお兄ちゃんを慕ってて、憧れてて、まぶしいくらいに。 


「……あれ?」 

いない。車が、ない。 
さっきまでここにあったはずなのにどうして? 
怒って帰っちゃったの?そんなぁ、お兄ちゃん、ひどいよ。 
ボクをキライになっちゃったの?いやだよ、おいていかないで 

お兄、ちゃぁあんっ、やだ、いやだぁあ 

…ボクは雨の中大きな声で泣いた。でもこの声はきっとお兄ちゃんには届かないんだろうな… 

1 とりあえず雨宿りしなきゃ 
2 もう少し探してみる。きっと場所を変えただけだよ 
3 …いま誰かボクのこと呼んだ? 



…雨宿りしなきゃ。このままじゃずぶ濡れになっちゃう。 
「くしゅんっ!」 
ああ、最悪。お兄ちゃんともはぐれちゃうしこんなにびしょびしょになっちゃって。 
「誰もいないじゃん。こんな雨だし仕方ないけど」 
…自然公園。お兄ちゃんが言ってた場所。 
まだちゃんと話を聞いてなかったな。聞こうとしたら急に雨が降ってきちゃって 

「岡井ちゃん!!」 

…え?いまだれかボクのこと呼んだ? 
「ここにいたんだね。探したよ!」 
き、キミは誰? 
「ってびしょびしょじゃないか!ほら、タオル。そ、それと…着替えた方がいいよ、ほら」 
「え…あっ!!」 
言われて自分の服を見たら、ずぶ濡れで下着が透けていた。うわぁあぁっ恥ずかしいぃ 

「う、後ろ向いてるから。あと、少し離れてるから、見ないから。心配しないで」 

あの人、ボクを誰かと間違ってるの? 
…でもどこかで会った気がする。まさかお兄ちゃんじゃ 

1 先に着替えよう 
2 誰なのか聞いてみようかな 
3 お兄ちゃん、あいたかった!と抱きつく 



「ねぇ」 
「岡井ちゃんもう着替えは、ってまだじゃないか!早く着替えなよ!す、透けてるよ!」 

誰か聞こうとしたけどだいたいわかった。 
心配してくれてるけど目を隠した指の隙間からボクの体をのぞいている。 
お兄ちゃんだな。それもまだ中学か高校生の。 
梨沙子ちゃんが昔にいってきたって言ってたけどその時は信じられなかった。 
まさかボクもその昔に行ってしまっただなんて…… 
でも変だな?たしか雅ちゃんも行ったらしいけど梨沙子ちゃんが連れていったって言ってた。 
ボク一人だけが昔にいっちゃったのはどうして 

「岡井ちゃんとりあえず雨宿りしよう」 
「あっ、う、うん」 

思わず返事したら一瞬首をかしげたけどお兄ちゃんはボクをつれて木の下にあるベンチに座った。 
「ごめんね。せっかくデートなのに雨になっちゃって」 
「き、キミのせいじゃないよ。気にしないで」 

また、あれ?って顔したぞ。 
やっぱりボクが人違いだって気付いたかのかな。 

「…今日はなんか雰囲気違うね。岡井ちゃん」 
「そっそう?!気のせいだよ」 

まずいっ、変に思ってる。どうしよう 

1 しゃべり方がおかしいんだ。がんばって演技しよう 
2 お兄ちゃんは単純だから勢いで通せばだませる 
3 ラッキー雨が小降りになってきた。逃げよう! 



話で聞いてたからしゃべり方とかお兄ちゃんをどう呼ぶのかとかわかるよ。 
「ボク、いやちさとはいつもと同じだ…ですよ、おに、ジミー先輩!」 
舌がまわらないよ。これは怪しいだろうな。お兄ちゃん疑うよ 
「そっか。そうだよね。岡井ちゃんはいつもと変わらないよね」 

…あ、また胸見てるな。んもう今とぜんぜん変わってないんだから! 
また顔変わった。気付かれた?って顔してる。バレバレだよ 

「雨が止んできたね!きゃ、キャッチボールしようか」 
「うん、いやっ、はい!先輩」 

照れ隠しだな。お兄ちゃんって分かりやすいね。 
ボクに似てる後輩の娘ってどんな娘だったんだろう。話だけじゃやっぱりわからないよね 

「いくよ岡井ちゃん、そーれっ!」 

えっ待ってお兄ちゃん、まだ準備ができてな、うわ! 
「大丈夫?!」 
「だ、大丈夫です!いきなりきたからびっくりしちゃって」 
けっこういい肩してるな。 
今でもキャッチボールしてくれるけどやっぱり強いもんな。 
「いきますよぉ〜!」 
「俺の頭に当てないでよ、あ、ごめん、冗談冗談」 
力を入れて投げ返したけど飛ばない…足なら自信あるんだけど 
「岡井ちゃん今日は調子悪いみたいだね」 

笑ってる…なんか悔しいなぁ、もう 

1 悔しいからもう一回投げ返してやる! 
2 サッカーなら負けない!キーパーやって 
3 あれ?なにかがボクのところに飛んでくる 



…あれ?なにかが飛んでくる。あれは 

「ボール?」 

うそ、こっちに来てる?まずい、気付くのが遅すぎたみたい。このままじゃ当たる 

「岡井ちゃんっ!!」 
「うわぁっ!!」 

お兄ちゃんに突き飛ばされて、そのまま地面に転んでしまった。 
「あいたた…」 
ボク、助かったの?だったらお兄ちゃんは? 
「だ、大丈夫岡井ちゃん?!怪我はない?!」 
お兄ちゃん…!ひどい、顔にアザができてる! 
「ちさとは大丈夫です。でも先輩がっ」 
「痛くないよ。いつもの事じゃん、ね?」 
どうやら近くにキャッチボールしてた親子がいたらしく、手元がくるったらしい。 
何回も謝る親に対して笑いながら気を付けてと言ってる姿… 

¨ドキッ¨ 

う、なんだよ、今胸が痛くなったぞ。 
ボクいったいどうしちゃったんだよぉ… 

あのままだったらボクは確実に怪我をしてた。 
お兄ちゃんが守ってくれたんだ。ボクを… 

「良かった。岡井ちゃんを護れた!あは、なんて…喉乾いたでしょ、ジュース買ってくるね。なにがいい?」 
「えっ!あ、あの、じゃあコーラ」 

胸がどきどきしてる。あんなふうに守ってくれたの初めてだよ。ボク… 
いっちゃう。お兄ちゃんがいっちゃう、まって、いかないで 


「……さと!千聖!」 
今度は後ろからお兄ちゃんの声がした。振り向くと今より少し大きくなったお兄ちゃんが 
「やっと見つけた、心配したんだぞ、電話はつながらないし…もうどこ行ってたんだ」 

…戻っちゃったんだ。 
「いたよ。ここに」 
「ウソだろ。何回も探したんだぞ、こんなに汗かいちゃったよ…でも千聖もびしょびしょだな」 

まーたボクを見てるな、とくにあの部分。 
さっきはあんなにかっこよかったのに 

1 ふくらんでる部分を蹴る 
2 着替えるからあっち向いててよ 
3 キャッチボールしない? 



「着替えるからあっち向いててよ」 
「わかった。向かない」 

…ほんとに向かない?向くよね、お兄ちゃんなら。 
お腹のあたりまでめくったところで急に後ろを振り返ったら 
「…まだか?千聖〜」 
まだ向いてない。急に向こうをむいた様子もない。さっきはエッチしようとか言ってたけど… 

「キャッチボールしようよ」 
「いいよ。雨もあがったしな。下が濡れてるから気を付けろ」 

うっわぁ!お兄ちゃんやっぱり肩強いな〜。よーし負けないぞ!ボクだって 
……あれっ、なんだ、またなにかが飛んできてる? 
ボールだ。どうして、さっきと同じじゃないか。投げようとしたから体が固まって 

助けて。 

お兄ちゃん、助けて! 

 「千聖!!」 

突き飛ばされてもいい。ボールに当たるよりは痛くないよ、我慢するよ。 
…あれ…?突き飛ばされない、どうして。 
おそるおそる目をあけると、ボクの体を包み込むように抱き締めていた。 

「怪我はないか?千聖」 
「…う、うん…」 

顔が近いよぉ…見つめないで、どきどきしちゃうからぁ… 

近くでキャッチボールしてた親子の親がお兄ちゃんに謝ってる。お兄ちゃんは…笑顔だ。 
「アザになっちゃったね、ごめん、ボクが早く動いてれば」 
頭をくしゃっとしてまた笑顔になるお兄ちゃん。 

「お前に怪我はないだろ。もっと笑えよ」 
「でっでも!」 
「…たまにはお前にもいいとこ見せたいんだよ。いいだろ」 

…かっこいい。 

いつもは平気でボクの胸とか触ったりするくせに… 
なんかかっこいいよ。悔しいけど、どきどきしちゃうよ。 

「ち、千聖。そんなに見つめるな。おい」 
「………お兄ちゃん…」 

…あったかい。 
もう大丈夫だ、って思う。 

ボク、このままこうしててほしいな。 
ボクに似てる娘もみんなもお兄ちゃんを好きになった訳がわかった気がするよ。 

いつも頼りないくせに、こういう時はちゃんと…… 

「千聖」 
「…お兄ちゃん」 

いまならちゃんと言えるよ。 

ボクを… 
「ボクを、守って」