どうも最近、誰かに見られてるような気がする。 

いつもじゃなくて、たまになんだけども。 
周りを見回しても誰もいない。 
ストーカーってやつか?気味悪いな。 
あんなことがあったばっかりだし、気をつけなきゃな。 
どこからか感じる視線を無理やり無視して、視線を目の前のグラウンドに集中させた。 

部活の練習で走ってる舞美先輩。 
ゴールを駆け抜けたところでマネージャーらしき人が何か話しかけてきてる。 
話を聞いたと途端に飛び上がって喜ぶ舞美先輩、どうやら記録が伸びたみたいだ。 
あ、またスタートラインに戻ってく。また走るのかな。 

とにかく舞美先輩はすごい。 
何に対しても全力だし、まっすぐだし。 
あんなまっすぐに何かに全力で打ち込むなんて、俺にできるのかな… 
ベンチに腰掛けたまま、ぼんやりと考えていた。 

と、そんな思考が突然、強制的にシャットアウトされることになった。 

1.誰かがすごい勢いでこっちへ走ってきた 
2.突然飛んできたボールが脳天を直撃 
3.後ろから目隠しされて、ついでに後頭部に胸を押し付けられた 



「あぶなーい!!」 
へ?と声のしたほうを振り向いたときにはもう遅かった。 

 "ゴスッ!" 

という鈍い音とともに回転する視界。 
「〜〜〜〜〜ッ!!」 
い…ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! 
本気で痛いときはもう声も出ない。 
ベンチから転げ落ちた俺は頭を抑えてのたうち転げまわった。 
そばに転がるソフトボール。どうやら直撃したのはこれ…か……。 

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか…ってジミー先輩!!」 
慌てて走ってきた女の子は、ボールを食らったのが俺だと分かるとさらに取り乱した。 
短い髪、健康的な肌、そしてその可愛らしい容姿にはちょっと似つかわしくない立派な胸。 
岡井ちゃん…なんだけど… 

「ホントごめんなさい!あぁぁどうしようどうしよう、大丈夫ですか!?」 
正直、まったく大丈夫じゃない。 
これで大丈夫だったら不死身超人だ。 

1.保健室連れてってくれぇ… 
2.動けない、膝枕して 
3.この子の前では強がらないわけにいかない 



痛い、正直、男だけど泣きそうだし。 
だけどこの子の前ではずっと弱いところは見せてこなかったはず。 
大丈夫だ、俺なら不死身超人にだってなれる!! 

「だ、大丈夫だよ、何とかね…」 
「ホントごめんなさい!友達と遊んでたんですけど、ホームラン打ったらこんなとこまで飛んじゃって…」 
おいおい、あんな遠くからかっ飛ばしたのか!?どういう肩してるんだよ… 
申し訳なさそうに、そして気遣わしげに俺を見上げてくる岡井ちゃん。 
この子の眉の下がった顔はなんか可愛らしいんだよな。 
大丈夫アピールしたんだけど、岡井ちゃんは心配なようで俺と並んでベンチに座った。 

「…ところでジミー先輩、なんか記憶喪失とかって聞いたんですけど、ちさとのこと、覚えてます?」 

1.大体はね、お見舞いにも来てくれたし 
2.今ので忘れちゃったかな、とからかう 
3.正直、微妙なところが多いかも… 
4.むしろ岡井ちゃんも忘れてるマニアックな思い出を話して驚かせる 



正直、記憶がすべて戻ったかっていうと、答えはNo、なんだけどね。 
でも不幸中の幸いというか、岡井ちゃんのことはけっこう覚えてるんだよな。 
なんでか分かんないけど。 
「覚えてるよもちろん。岡井ちゃんのこと忘れるわけないじゃん」 
「ホントですか!?よかったぁ!」 
「例えば…去年岡井ちゃんと買い物行ったでしょ、あれ、俺にとって初めての女の子とのデートだったんだよね」 
「えっ!?そうなんですか!!?」 
びっくりして目を丸くする岡井ちゃん。 
流石に岡井ちゃん自身もこんなマニアックなことは知らなかったらしいなw 

「え、え、ホントですか!?」 
「こんなことでウソつくわけないじゃん、岡井ちゃんのこと、忘れるわけないだろ!」 
「わぁ、なんかすっごい嬉しいです!」 
「うわ!揺すらないで!まだちょっと頭痛いんだから!」 
「あ、ご、ごめんなさいっ!」 
嬉しくて俺の体を揺すってくる岡井ちゃんを慌てて止める。 
流石にまだボールがぶつかった頭は痛い。 

「ホントごめんなさい、なんかちさと、ジミー先輩に迷惑かけてばっかじゃないですか?」 
「そうかな?俺は別に気にしてないけど」 
「だってボールはぶつけるし、呼び出しといてそれ忘れちゃうし、舞ちゃんに余計なこと言っちゃうし…」 
「大丈夫だから気にしなくていいって」 
「でも、なんかすごい申し訳ないなって思ってて…何かちさとお詫びがしたいんですけど」 
「え、いいよ、ホントに」 
「でもだって、いつもジミー先輩にはお世話になってるし、何かしたいってずっと思ってたんです」 
何か、って言われてもなぁ… 

1.他に忘れてることを思い出すの手伝ってほしい 
2.俺の悩みを聞いてくれ、最近ストーカーに付き纏われてるみたいで 
3.じゃあ…俺とデートしてくれる? 
4.ホントに気にしないで、俺が好きでやってることだから 



悩んでること、って言われたら正直なところいくつかあるけど、ストーカーを探すとか、危ないしな。 
岡井ちゃんをそんなことに巻き込むわけにもいかない。 
まぁ、無難なところではあるんだけど。 
「じゃあ…また俺とデートしてくれる?」 
「えっ…ええんですか!?」 
「『俺がしてほしいこと』っていうから、俺がお願いしてるんだよ、岡井ちゃんに」 
「ちさとは…ちさとはいいですけど、ジミー先輩はいいんですか?徳永先輩とか…」 
「流石にちぃにほっぺたつねられたり舞ちゃんにボールぶつけられたりするのは嫌だから内緒でねw」 
「絶対言いませんから!誰にも!」 
岡井ちゃんは素直だからな、これで誰かに見つかって痛い目みることもないだろう。 
「ほら、約束」 
「は、はい…」 
いつもの指きり。岡井ちゃんと約束するときはいつもこれだ。 
岡井ちゃんのことはよく覚えてるなぁ。どうして覚えていられたのか。 
深く考えすぎるとまたドツボに嵌りそうだけど。 

「じゃあ今度いつかデート、どこか行きたい場所はある?」 
「行きたい場所、ですか…うーん…」 

1.アスレチックいっぱいの自然公園 
2.映画館 
3.大人っぽく美術館 



「じゃあ、隣の市にあるあのでっかい自然公園行きません!?ずっと行ってみたかったんですよ」 
「そっか、じゃあそこに行くことにしよっか。考えてみるよ。」 
「はい!よろしくお願いします!」 
確かに、あそこは広いし、体を動かすのが大好きな岡井ちゃんにはうってつけかもしれないな。 
そういえば、キャッチボールする約束もしてたはずだし、ちょうどいいかもしれない。 

岡井ちゃんと話し込んでるうちに、陸上部の練習は終わったのか舞美先輩たちはいなくなっていた。 
ついでに、さっきからずっと見られていたような視線も。 
そうだ、コレを何とかしなきゃなぁ…。 
しかしまるで心当たりがない。まさかまだ忘れてる誰かとかなのか? 

「そろそろ帰ろっか、送るよ」 
「えー、まだ明るいし、一人でも大丈夫ですよ」 
「いいから、もう少しだけいっしょにいたいから、ね」 
「あ、はい…」 
また顔を赤くする岡井ちゃんを連れて自転車置き場に。 
俺のせいで女の子に危ない目に遭わせるわけにいかないしな。 


「いたたた…」 
家に帰って頭を触ると、ボールがぶつかったところはたんこぶになっていた。 
冷凍庫の氷で冷やしながらぼんやりと考える。 
今度はどんな目に遭ったって、みんなのことは忘れない、忘れたくない。 
ヘタレな俺だけど、好きな子くらいは守れる程度に強くはありたい。 
やっぱ清水先輩が言ってたみたいに、空手とかやったほうがいいのかね…。 
ホントは腕っ節もなくてカッコ悪くて情けない俺をヒーローみたいに思ってくれてる岡井ちゃんのためにも、 
もっともっとカッコいい男になりたい、と思った。