俺は寝汗をかいていたらしく、起きてみると身体中から水分が抜け出したみたいに布団がびっしょりしていた。 それにしても悪夢をみたな、酷い夢だった…栞菜ちゃんから脅迫される夢だ。 俺にストーカーしてバイトの事がバラされたくなければ、私の言う通りにしなさいというものだった。 だが、あれが現実にならないとは限らないから用心しないとな。 ふぅ〜今日は悪い日になりそうだと、気落ちしたまま俺が登校すると… 「ジミー、お前顔色悪いぞ。学校休んだ方がいいんじゃないか?」 「大丈夫だ」 「大丈夫なわけないぞ。顔が青白いにもほどがある」 最近ではあまり顔をみせなかった萩原から登校するなり妙な心配をされている。 どうやら顔色がよくないとのことだが、だからといって休むわけにもいかないよな。 だって学校始まって勉強に追い付けないのをつくづく感じる。 あとあの悪夢を振り払いたいからかもしれない。 あれは夢だ、夢なんだと思いたい。 「おい、ジミーって奴はいるか?」 …何だ、あのゴッツイ男は。 上級生なのはわかるが、あんな知り合いはいない。 1 素直に名乗り出る 2 これも夢だと寝る 3 教室から逃げ出す 「ジミーは俺ですけど」 俺は恐る恐る名乗り出ることにした。 名乗り出なくともどうせバレるに決まっている。 「お前か、ちょっと面貸せ」 謎の上級生は俺を連れ、夢と同じ屋上に来ていた。 春だというのに肌寒い風が吹き、心まで冷えてくる。 「まずはうちの妹を泣かしたこと謝ってもらおうか?」 「謝るって俺何かしましたか?」 「トボけるなよ。お前が原因でうちの妹は泣いてるんだぞ」 否定を一切許さない迫力ある目だけで、俺は殺されそうな恐怖を感じる。 「順番を追って説明して下さい。誰のお兄さんなんですか?」 「須藤だ、須藤茉麻の兄だ」 …茉麻の? で、茉麻の兄が何故に俺にキレる必要があるんだ…まさか!! 夢の内容と被ることが起きたか? 「お前、女がいるくせしてうちの妹も口説いたろ。おかげですっかり舞い上がってるんだよ、あの茉麻が」 茉麻には一番好きと期待させ、エッチまでしたからな、酷いことしたとは自覚している。 「お前、することしておいてそれからほったらかしにしてるそうじゃねぇか」 「それは…」 「あいつが泣いてるのをお前は知らないだろう。あ?」 「知りません…」 「一発、いや気がすむまで殴らせろ」 1 わかりました 2 一発だけなら 3 勘弁して下さい、と土下座する 「わかりました」 「それでこそ男だ。しっかり耐えろ」 重く鈍いパンチ、一発一発が鈍器で殴られたみたいな衝撃で浴びせられる。 起き上がっても起き上がっても殴る拳は休むことなく打たれ続ける。 もう何回目か数えるのも億劫になり、神経が麻痺してからも相当な数殴られている。 殴る須藤兄の手も皮が剥け、自分も痛いはずなのにやめない。 たぶんこうでしか妹の無念さを晴らすことを知らないんだ。 俺はその痛みにただ耐えるしかない。 「オラッオラッオラッオラッオラッオラッー」 「ふぎゃぴ〜」 血は不味い、口に広がる生臭い味。 神経が麻痺してから何回目かわからないくらい殴られた。 「やめて、お兄ちゃん。死んじゃうでしょ。もうやめて」 「茉麻、お前…こんな男どこがいいんだ」 「好きなことに理由なんていらないでしょ。私はただこの人が好きなの。もうやめてくれないと私、お兄ちゃんでも停学させるから」 「茉麻…」 茉麻が助けにきてくれたらしいが、腫れた目をした俺には誰だか区別がつかない。 耳もあまりいいとは言えないから、会話から茉麻と判断するしかない。 「どけっ、そいつがお前に何したか思い知らせないと気がすまないんだよ」 あなたの気持ちもわかります、大事な妹さんに傷つけたのは俺だから。 1 ひたすら謝る 2 茉麻、助けて 3 俺の問題だからと茉麻にはどいてもらう 「俺の問題だから茉麻はどくんだ」 「カッコつけてる場合じゃないでしょ。うちのお兄ちゃんボクシングやってるんだからあんた死ぬわよ」 どおりで一発の重みが違うはずだよ。 今までで一番重いからな… 「茉麻、そいつはお前とは違う女と一緒にいたじゃないか。しかも俺の友達の妹だ」 「…誰のこといってるんですか?」 「矢島の妹だ。あいつと俺は友達でな、その妹とくれば妹同然なんだよ」 舞美先輩と一緒にいるのを見られたから? 確かにあの人とも恋人のように付き合っている… 「その矢島の妹にも手をだしたとなれば、許すわけにはいかないんだよ」 「舞美先輩に手を出したのも謝ります。悪かったです」 「そういう問題じゃねぇよ。ふん、矢島の妹、そしてうちの妹にも手を出さない。そう誓えるか?」 1 誓います 2 誓えません 3 二人は大事な友達だから許して下さい 4 これも夢だ、そう夢だ 須藤兄との約束を誓ってしまったら俺はもう二人と会えなくなる。 会えなくなったら、その事は考えるだけでも恐ろしい。 そんな考えでいた俺は自然といいえ、と一言言っていた。 「誓えません」 「こいつ、まだ殴らないとわからないか。野郎」 「お兄ちゃんやめて。この人がこんな人間って知りながら好きになったの私だもの。この人は悪くないの」 「バカ、何が悪くないだ。全部こいつが悪いに決まっているだろうが」 須藤兄の言う通りだ、悪いのは俺以外にいない。 殴られて痛い思いして返事はいいえだしな、懲りてないよ。 はは、バカな奴だ。 「妹に免じて今日はこれで終わりだ。だけどな、今後矢島の妹といるとこみたらうちの妹共々別れさせるからな」 参った、痛くて感覚がない。 瞼が重くなる俺は目の前の茉麻さえ霞んできてしまった… あぁ、死ぬのかな… 「 、起きて。起きて」 茉麻の声を最後に消えていく意識の中、俺は気を失った。 そして、次に起きた時、見知らぬ天井が目に映った。 ここは? 「先輩起きてくれたんですね?良かった〜ずっと目が醒めないから死んじゃうかと思いました」 「君は…栞菜ちゃん」 栞菜ちゃんは屋上で倒れた俺を毎日病院まで看病にきてくれたらしい。 あの場に須藤さんはいなかった?と聞くといないという。 って、須藤さんって誰だっけ? そんな知り合いいたかなと俺は疑問に思いながらも自然と聞いていた。 「 、あんた起きたのね。本当に心配ばかりかけて」 「母さん」 「あんたが倒れてから毎日この子があんたの看病してくれてたんだから」 栞菜ちゃんは一途だからな、俺の〇〇に相応しいんだ。 「本当に良かった〜先輩、これで学校にもまた行けるね」 「うん」 「私と先輩の関係はどんなだったか覚えてる?」 「ううん、全然」 「そっか〜お医者さんの言う通りか。私と先輩は愛しあってたんだから」 「そっか、だから毎日来てくれてたんだもんな」 どこか記憶の一部に欠落がみられる、医者はそう診断した。 間違ってはいなかった、医者も悪夢にでてきた女の子の言葉も。 俺は大事な人たちとの記憶を無くしたんだ…とても大事だったのに でも、愛してる栞菜ちゃんはいるし問題ないよな。 人生は薔薇色だ、栞菜ちゃん。