ん〜っ!今日の授業も終わりっ! 
クラスのみんなもめいめいにクラスメートと話したり、帰り支度をしたりと好きなことをして過ごしている。 

「ねぇねぇジミーっち、放課後みやと茉麻とパフェ食べに行こうかって話してるんだけど、行かない?」 
ちぃが俺の制服の袖を引っ張ってきた。 
ん〜、3人とだったらい是非とも行きたいところなんだが…。 
「悪いな、ちょっと今あんまりお金なくてさ」 
「え〜ウソばっか、あるじゃん、バイトやってんだし」 
「しーっ!それは内緒って約束だろ!」 
慌ててちぃの口を押さえて周りに聞こえてないか周りを見回す。 
…大丈夫だな。ちぃに目で合図してからちぃの口から手を離す。 
「ごめんごめん、そういやそうだったね」 
「ちょっと給料入るからって油断して無駄遣いしちゃってさ。また今度な」 
「しょーがないなぁ、また今度絶対だからね」 
と、ちぃと雅ちゃんと茉麻には少し残念そうな目で見送られながら一人教室を後にした。 

「…ん?なんだコリャ?」 
下駄箱を開けると、見慣れない紙切れが入っていた。 
誰かが入れた、ってことか。 
きれいに二つ折りにされたその紙を開くと…。 

1.「来たれ陸上部!部員募集!!」と書かれた勧誘チラシ 
2.「放課後屋上に出頭しなさい」と桃のイラストが書かれたメモ 
3.「時間があったら勉強教えてくれませんか? 岡井千聖」と書かれたメモ 



『時間があったら勉強教えてくれませんか? 
 校門の前で待ってます            岡井千聖』 
岡井ちゃんからのお願いのお手紙だった。 
高等部に入学してから、やっぱり中等部校舎のほうに行くことが少なくなったから 
なかなか中等部の後輩たちとは顔を合わせられてないな。 
岡井ちゃんともそういえば入学してからまだ会ってない。 
困ってる後輩を見過ごすことはできないし、ここは行くしかないでしょう! 

「…あれ?岡井ちゃんどこだろ?」 
校門の前まで出てきてみたけど、岡井ちゃんの姿はない。 
おかしいなぁ…呼び出しといて帰っちゃったかな? 
けっこうああ見えて律儀だからそんなことないと思うんだけど…。 
まだどっか近くにいるかな? 

1.グラウンド 
2.中等部の校舎 
3.岡井ちゃんの家へ 



たぶんまだ近くにいるに違いない。 
そう思った俺は中等部の校舎に行ってみることにした。 
ほんの1ヶ月ほど前まで通ってた校舎だけど、何となく久々だなぁ。 
ちょっぴり懐かしい気分になりながら校舎を歩いていく。 
すれ違う中等部の生徒が、高等部の制服を着た俺が歩いていくのを見て怪訝な表情を見せている。 
考えてみたら梅田先輩や舞美先輩もよく中等部校舎に来てたけど、やっぱけっこう注目浴びてたなぁ。 

そんなことを考えながら中2の校舎を歩いていく。 
考えてみたら俺、進級した岡井ちゃんのクラス知らないじゃん…とか思っていたが、 
ふと見ると、廊下からグラウンドを見下ろす岡井ちゃんの姿を見つけた。 
何かを熱心に見ているみたいで、こっちにはまだ気付いていないみたいだ。 

先輩を呼び出しといて、こんなところで油を売ってるなんていけませんねぇ。 
さて、どうしてやりましょうか? 

1.わっ!といきなり肩を叩いて驚かせる 
2.いつものように「だーれだ?」と目隠し 
3.いつものように「だーれだ?」と胸を鷲掴み 



窓からグラウンドを見下ろす岡井ちゃんはまるでこっちには気付いてない。 
というか、もしもここからずっと見てたなら、校門まで行った俺の姿も見えてるはずなんだけどな。 
いけませんねぇ、いけませんよ。先輩はもっと丁重に扱ってもらわないと。 
ちょっとくらい驚かせてもバチは当たらないはず。 
ゆっくりゆっくり岡井ちゃんに近づいて、気付かれないように背後に立った。 

「だーれだっ?」 
「ひゃっ!?え?えぇ? ……もしかして、ジミー先輩?」 
「当たり〜、よく分かったね」 
「えへへ、ちさとにこんなことするの、ジミー先輩だけですもんw」 
人懐こい笑みを浮かべる岡井ちゃん。 
だけど自分が呼び出してたのを思い出したのか、一気に顔色が変わった。 

「ご、ごめんなさいっ!」 
「あはは、気にしてないよw ちゃんと岡井ちゃんにも会えたしね」 
「ごめんなさい、待ってたんですけど忘れ物思い出しちゃって。それで戻ったらそっちを忘れちゃって…」 
頭を掻きながら、俯いて申し訳なさそうに俺を見上げてくる岡井ちゃん。 
「ふ〜ん、忘れちゃってたんだ、悲しいなぁ。俺は岡井ちゃんのこといっぱい考えてたのに」 
「あぁぁぁぁ、ホントごめんなさい!ちさと何でもしますから、許してください!」 
すぐに焦っちゃうから岡井ちゃんは可愛いなぁ。 
でも何でもするって? 
いけないよ、俺みたいなワルい男にそんなこと言っちゃったら…。 

1.じゃあ今からデートしようか、お金ないけど 
2.エッチなことしちゃおうかなぁ〜wといやらしい顔で言ってみる 
3.気にすることないよ、それより勉強でしょ? 



「許してほしい?」 
「はい!」 
「さっき言ったけど、何でもする?」 
「します!」 
「じゃあ…エッチなことしちゃおうかなぁ〜」 
「えっ!?」 
俺がいかにも悪役なセリフを発した瞬間、岡井ちゃんの顔が固まった。 
笑い出しそうになるのをこらえてワルい顔を作り、両手の指を顔の横でワキワキと折り曲げて見せながら 
岡井ちゃんに近寄っていく。 
それに合わせてじりじり後ずさりする岡井ちゃん。 

「何でもする、って言ったよねぇ?」 
「えっ、あ、その、言いましたけど、それはちょっと…」 
「また約束破っちゃうの?自分で言ったのに…」 
「うっ、それは、そうなんですけど…」 
自分で言ったとはいえ、流石にそれは無理らしく、本気で困ってる岡井ちゃん。 
うぅ…S心が刺激される! 
この子はMってわけじゃないんだろうけど、基本先輩には逆らわないからな。 
からかいたいだけなんだけどな。そんないい反応されちゃったら俺も本気でしちゃいたくなるじゃん。 
「目を閉じてよ…その間に全部終わるから」 
「……ッ!」 
本気で怯えたように肩を震わせながら恐る恐る目を閉じる岡井ちゃん。 
あんまりやりすぎると泣かせちゃいそうだな。 
この辺にしとこうか。 

1.デコピンして冗談だよ、と笑いかける 
2.ほっぺにキス 
3.唇にキス 
4.胸を1回だけ揉む 



放課後とはいえ、学校だ。人の目もあるからこんな廊下でヘンなことなんてできるわけがない。 
ちょっと考えたら分かりそうなことだけど、岡井ちゃんはどうやらそんなこと考える余裕もないらしい。 
こんなに震えちゃって…可愛いなぁ。 
両肩に手を置くと、びくりを身体を震わせた。 
これだけでゆるしてあげる。 

「んっ…」 
「…ぇ……?」 
ほっぺたに、キス。 
「…ごめんね、ちょっと意地悪しすぎたかな」 
そっと離れると、ほっぺたに手を当てた岡井ちゃんの顔がみるみるうちに赤くなった。 
「え?え!?今のって…えぇぇ!?」 
「あんまり岡井ちゃんが可愛かったからさ、ついしたくなっちゃったw」 
「じ…ミィ、先輩……」 
呆然と口を半開きにしたまま俺を見上げる岡井ちゃん。 
あらあら、ちょっと刺激が強かったかなw 

「ねぇ岡井ちゃん、大丈夫?」 
「ふぇ…?あっ!だだだ大丈夫ですっ!」 
目の前で手をひらひら動かすと我に返ったのか急にバタバタと動き出した。 
「あのさ、勉強教えて、って言ってたけど、今日これから、って感じ」 
「あああそうですね、勉強、勉強ですね!あの、大丈夫です!宿題がちょっとあってその…!」 
…大丈夫そうには見えないな。 

1.とりあえず、保健室行く? 
2.大丈夫なら話し進めようか。学習室ででも 
3.大丈夫でもそうでなくても心配だ、まずは岡井ちゃんの家に送ろう 



本人が大丈夫だ、って言ってるから大丈夫、なのかなぁ…。 
若干不安は残るけど、本人が大丈夫と言い張るので、その言葉を信じることにした。 
もともとの本題は岡井ちゃんの勉強を見てほしい、って話しだったしな。 

そんなわけでやってきたのは学校の自習室。 
多くの座席は個々に仕切られているけど、テーブルのスペースになっている一角なら並んで勉強することができる。 
「だからぁ、この5(x−2y)っていったら、5かけるx−2yなわけ」 
「そしたら、5x−2yなんじゃないんですか?」 
「そうじゃなくて、このx−2yの両方ともに5を掛けてやるの」 
「ってことはぁ、5かけるマイナス2y…−10yだから、5x−10y?」 
「そうそう、おっけー」 
中1に比べてやっぱり少し勉強が難しくなってるのと、さっきのがよっぽど動揺したのか 
前回より若干時間はかかったけど、何とか宿題は片付けることができそうだ。 
でもなんかイマイチ集中力に欠けてるような…。 

「7(x−y)−5(x+y)……ええと、まずカッコを外すから…7x−y…?」 
ほら、そこさっき教えたばっかりだよ。 
うーん、分かって…ないのかなぁ。俺の教え方が悪いのか。 

1.ほら、そこ違ってるよ、と注意 
2.間違いを指摘しつつ、助け舟を 
3.ちょっと気晴らししたほうがいいかも。休憩してどっか行こう 



「ちょっと休憩しようか」 
「え、でも……」 
「あんまり根詰めてやってても頭に入らないよ。ちょっとだけ休憩しよう」 
このままやっててもなんか間違った答えを出しちゃいそうだ。 
能率が上がるとは思えなかったので、休憩して軽く散歩することにした。 

「あ〜っ!いい天気!」 
「ホントですねぇ!」 
宿題を中途半端に投げてきて戸惑う岡井ちゃんを引っ張ってやってきたのは屋上。 
頬を撫でていく風が気持ちいい。 
「高等部の屋上ってベンチまであるんですねぇ!いいなぁ、気持ちよさそう」 
「あはは、サボったりしに来てもいいよw」 
「えーっ、ダメですよぉサボっちゃw」 
君と同級生でしかも特進クラスのあの子はサボりに来てたけどねw 

グラウンドでは相変わらず部活をやってる生徒が汗を流している。 
仮入部の期間なのか、ユニフォームじゃなくジャージを着た生徒が多いような気がするな。 
岡井ちゃんと2人して手すりにもたれながら、グラウンドを見下ろす。 
ふと見ると、隣の岡井ちゃんはいつもの無邪気な目じゃなく、なんだか遠くを見つめるような目をしてて…。 

1.何か悩みでもある? 
2.そういえばさっきもグラウンド見てたね 
3.グラウンドよりも俺を見てよw 



「どうかした?」 
「え?」 
「なんかすごい切なそうな目してたからさ。そうえいばさっきもグラウンド見てたよね」 
「そうですか?や、大したことじゃないんですけど…いいなぁ、って…」 
なんだか眩しげに、というか羨ましそうにグラウンドを見てる岡井ちゃん。 
「ちさと、ホントは部活やりたかったんですよ、野球とかサッカーとか」 
「そうなの?」 
「でもやっぱり女の子だったらやれないじゃないですか。やってもマネージャーとかで」 
「確かにね…」 
「パパやママにも反対されるし、でもホントはすごい身体動かすの大好きだからやりたいな、って…」 
確かに、もう中2にもなるけど、これだけ活発で男勝りの女の子、ってなかなかいないもんなぁ。 
舞美先輩や早貴ちゃんはそれなりに実力もあって結果も残してるし、それでいて乙女チックだったりもするし。 

「愛理がちょっと前言ってたんですけど、弟とキャッチボールしたらしいんですよ、家で」 
「愛理ちゃんが?なんかものすごい意外だね」 
あの子がグローブはめてキャッチボールしてる姿なんて想像つかないな。 
「なんかそれ聞いたら羨ましいな、って思って。なんかすごい野球部とか見ちゃうんですよ」 
「そっか…難しいよね」 
「友達とかにこういう話ししても、もっと女らしくしろとか言われちゃうんですけどねw」 

1.確かに岡井ちゃんはもっと女の子らしくしたほうがいいかもね 
2.俺は元気な女の子も好きだよ 
3.俺でよかったら、今度キャッチボールする? 



自分が中2の頃を思い出してみる。 
うーん…確かに岡井ちゃんみたいに放課後男子に混じってサッカーしたり、って子はいなかったなぁ。 
もちろん、岡井ちゃんみたいにここまで男勝りに活発に動く子も。 
でも女の子が女の子らしくなきゃいけないなんて誰が決めた? 
これからは女性が社会に進出しなきゃいけない時代だって今日の政経の授業でなんか言ってた気がする。 
こういう女の子がいたっていいんじゃないか? 
何より… 

「俺は元気な女の子も好きだけどな」 
「えっ…」 
「岡井ちゃんみたいにさ、わーっていっしょに遊んだりできる子といっしょに居ても楽しいし」 
「ほ、ホントですか?そんなこと初めて言われた…」 
岡井ちゃんはびっくりしたように目を見開いて俺のほうを見上げてくる。 
信じられなさと嬉しさがごっちゃになってるんだろうな。 
「今度キャッチボールしようか、もちろん岡井ちゃんがよかったら、だけど」 
「え、いいんですか!?」 
「うん、一応俺元野球部だからグローブとか一式持ってるし」 
「ホントですか!ぜひお願いします!嬉しいなぁ」 
ホントに嬉しそうに両手を上げてガッツポーズする岡井ちゃん。 
きっと尻尾があったらちぎれんばかりに振ってるんだろうなw 

「ほら、約束」 
「は、はい…」 
小指を差し出すと、ちょっぴり赤くなりながらもおずおずと小指を絡めてくる岡井ちゃん。 
指を振りながら約束の文句を2人で歌ったけど、何となく指を離すのが惜しい気分になった。 

「ホントにホントにありがとうございました!今日も送ってもらっちゃって…」 
「けっこう遅くまで付き合わせちゃったしね。これくらいはお安い御用だよ」 
あのあと、学習室に戻って勉強を再開して。 
岡井ちゃんはさっきまでの散漫さがウソみたいに飲み込み早く、あっという間に片付いた。 
夕方になって少し陽も傾きだしていたので、岡井ちゃんの家の前まで送って、別れるところだ。 

「ホントちさと、ジミー先輩がいてくれてよかったなぁ、って思うんですよ。 
 いろいろ教えてもらえるし、励ましてもらったり、色んなちさとの夢叶えてもらってるし…」 
「あはは、これくらいでよければ、いくらでもしてあげるよ」 
「なんかすごい、頼りになるお兄ちゃん、って感じで…ジミー先輩みたいなお兄ちゃんいたら良かったのになぁ」 
「俺みたいなお兄ちゃんいたら大変だよ?岡井ちゃん困っちゃうと思うよw」 
「絶対そんなことないです!」 
岡井ちゃんは俺の本性まだ知らないからなぁw 

「じゃあまた」 
「はいっ、ジミー先輩も気をつけて、ありがとうございました!」 
見送ってくれる岡井ちゃんに背を向けて、自転車を漕ぎ出す。 
「ジミー先輩っ!!」 
「えっ?」 
「あの…約束ですからねっ!!」 
小指だけを立てた拳をブンブン振る岡井ちゃんに、手を振りながら家路を急ぐ。 

ああいう妹がいたら、やっぱいいよなぁ…。 
ワガママ放題な妹もいいけど、素直な妹もいいなぁ。 
改めて、親に殴られるの覚悟でもう一度妹が欲しい、と言ってみようかな、と思いつつ家路を急いだ。 
眩しい夕焼けが、岡井ちゃんの笑顔みたいにキラキラ輝いていた。