「早貴…ちゃん?」 

ようやく真面目に授業に出るようになり放課後、気分転換に中学の校舎を歩いていると 
ぽつりと独り教室で窓から空を眺めている早貴ちゃんを見つけた 

「先輩」 

なんだか寂しそうな表情だったが俺を見て、あの笑い声で笑顔になった。 
「どうしたの?こんなところでたそがれてて」 
「え?普通に夕焼け見てただけですよ」 

…そうかもしれない。 
特に寂しくないのかもしれない、ただ普通にいただけかも。 
でも、なぜか 
今とても寂しそうな顔をしてた気がしたんだ。 
なんだろう。早貴ちゃんは、こう、なんというか 

ふっと突然いなくなってしまうような雰囲気がある。 
「…ねえ、本当に夕焼け見てただけ?」 
「なんでですか?好きなんです、みかんに色が似てて」 
かわいらしい理由だな。本当にそれだけなのかもしれないが 

…俺の、ちょっとくすぐったい部分を刺激される。 
手を離すともう近くからいなくなってしまう…そう思ってしまう 

1 二人でしばらく夕焼けを見てみる 
2 普通に話をしようか。最近どう?配達してる? 
3 こういう雰囲気にがてだ。バカな話をしよう 



あーっだめだ。こういう雰囲気はなんだか重苦しくて 
「早貴ちゃんてばみかん星人だなぁ。あははははは」 
「………………」 

な、なぜそうやってほほえんだまま俺を見ているんだ。 
「先輩は明るいですね。私と違って」 
「何言ってるの、俺は単なるバカなだけだよ。早貴ちゃんだって明るいじゃん」 

…ちょっと表情に影がさしたのに気付いてしまった。 
くそ、普段はまるで場の雰囲気が読めないのに、なんでこういう時に限って鋭いんだか。 
「先輩は明るいですよぉ。いつも笑わせてくれるし、びっくりさせてくれるから」 
「そ、そお?普通にしてるつもりなんだけどなぁ」 
「びっくりしましたよ。当たり屋さんの真似とかね」 

はうっ。懐かしいな。あの時は若気のいたりってやつだよ。反省なんかしてないけど 
「き、きれいな夕焼けじゃない?ねえ」 
「先輩目が泳いでますよ。動揺してます?」 

してます。 
君の笑顔に、夕暮れに映えるそのどこか儚げな姿に。 

1 見たいならもう一度してあげようか? 
2 帰ろうか。話しながら 
3 恥ずかしいので黒板に落書きしてごまかす 



「先輩からかってないで帰るよ!」 
「汗かいてますよ、キュフフ…キュフフフフ」 
なにがおかしいんだよもうっ、早貴ちゃんたらイジワルなのね! 

「きれいですね」 
校門をくぐり二人並んでいつもの道を歩く。 
道端には大量の桜の花びらが散らばって張りついている。 
「…もう桜も終わりですね」 
「短いよねぇ、毎年思うけど。もう少し咲いててくれても」 
「…………」 

早貴ちゃんは寂しそうに桜の木を見上げたあと、道端の花びらを切なそうに見つめていた。 
「なんだかかわいそう。もうちょっと…生きたいと思ってるかもしれないのに」 
「えっ?!」 

その横顔がたまらなくなり思わず変な声を出してしまった。 
「綺麗なものって命が短いですよね。そう、思いません?」 

俺の方を見ないで、また夕陽を見ている早貴ちゃん。 
…どうしちゃったんだよ?なんだか今日は、変だよ。 
朝早く自転車を漕いで家の仕事を手伝ったり遅くまで部活で踊ってるあの早貴ちゃんじゃない。 

……なにか、あったのかな 

1 さりげなく聞いてみる 
2 そっと手を握って安心させてあげたい 
3 俺のことも見てよ〜とほっぺにキス 



「きゃっ!」 
その細くて小さな手を思わず握り締めてしまった。 
「どうしたんですか先輩。いたいですよ」 
「…さ、早貴ちゃんが握ってほしそうだったから」 
「先輩ってホントに面白い人ですね」 
そうだよ。その笑顔だよ、もっと笑って。安心した? 
「いたいですってば。それに、そんなに一生懸命握らなくても」 
両手で早貴ちゃんの手を握っている。離したらいなくなりそうで嫌なんだ。 
「は〜な〜し〜て〜」 

ぶんぶん手をふるその姿がかわいい。 
なんか楽しくなってきた、早貴ちゃんもキュフキュフしちゃって 

「私の家この近くです」 
え…もう?やだ、やだよ 
「今日はありがとうございました。また明日」 

ああっ、手を離さないで。いなくならないで 
走っていっちゃった。そんな…いなくならないで 
なんだか胸騒ぎがする。いやだ…… 


その時、ちょうど早貴ちゃんが曲がった角に大きなトラックが突っ込んでいった。 

鼓膜を貫く様な大きな音、飛び散るガラスやコンクリートの破片 
一瞬なにが起きたのかわからなかった。 

1 腰がすくんで動けない… 
2 早貴ちゃん!早貴ちゃああああんっ!! 
3 そ、そんな…ついさっきまであんなに楽しそうに話してたのに… 



「早貴ちゃああああんっ!!」 

なんだよ、これ。 
いったいどういうことだよ。早貴ちゃんが何をしたっていうんだ 
そんなの嘘だろ。嘘だと言ってよ、誰か嘘だって。 

こんなのって…どうして早貴ちゃんがこんな目に…?! 

すぐに角を曲がったが無惨にも壁にトラックが突き刺さり、トラックも壁も原型をとどめていなかった。 

逃げられなかったのか…? 

こんなのひどすぎる。 
(きれいなものって、命が短いですよね。そう思いません?) 
ちくしょう。なんでこんな言葉を思い出すんだ。 

信じられるか、こんなことが。 
これでもう二度とあの笑い声が聞こえないなんて… 

1 俺がもうちょっと手を握っていればこんなことには 
2 動けない。脱力感しか、ない 
3 …あれ?なんか聞き覚えのある声が聞こえる 




「……ぱい!…先輩!」 

なんだ?なにか、どこかで聞いたような声が 
いや、ついさっきまで聞いたらあの声が聞こえてきたぞ。 
「大丈夫ですか?!」 
後ろから覆いかぶさってくるような重みと暖かさ。 

「怪我してないですか?!しっかりしてください!先輩!」 
「さ…ささ、早貴ちゃん?!」 

夢か? 
夢じゃない。この、背中にあたる最近膨らんできた確かな感触は間違いない。 
「い、いまトラックにひかれたはずじゃ」 
「何言ってるんですか?先輩こそひかれたかと思いましたよ」 

…話しを聞いたらどうやら早貴ちゃんは配達のため速く家に帰ろうとして走ってたらしい。 
間一髪トラックにひかれずに済んだが、俺が近くにいたことを思い出して… 

「なんでそんな変な座り方してるんですか」 
「た、たてなくなっちゃった。起こして」 

「マネージャーさん!みかんですよみかん、みかんが浮いてますぅ〜」 
「あれは夕陽だよ」 
「わかってますぅ、マネージャーさんてばつまんないなぁ」 

レッスンが早く終わって早貴ちゃんに外に連れ出された。 
なにかと思ったら夕陽が見たいって… 
「きれいですね。みかんみたいで大好きです」 
ベンチに座り、俺の肩にそっと頭を寄せる早貴ちゃん。 
「ねえ」 
「はい?」 
「綺麗なものってさ…すぐなくなっちゃう。そう思わない?」 

きょとん、として俺を見つめている。 
そうだよ、わからなくていいんだ。君が分かるにはまだ早いよ 

「マネージャーさん変だよ。キュフフ…♪」 

俺に向けられたその笑顔は、 

あの日振り向いた時に一瞬だけ見えた顔と重なっているように見えて 

早貴ちゃんの肩にそっと回した手には自然と力が入っていた。 
もし離したら、いなくなってしまうような気がしたから