授業? 
なんだそれ、うまいのか? 

高校生になり早くも俺のダメ人間ぶりが出てきている。 
「いい天気だぁ。こんな日に教室でおとなしく授業なんか受けてられないよ」 
屋上ってすばらしい場所だな。ほら、さぼって言わんばかりにベンチまで置いてある。 

登校して真っ先にここまで来てしまった。ああ、こりゃ完璧にダメ人間だぜ俺は。 
「ふわぁああああ……」 

春の風はきもちがいい。今日は放課後まで眠れそうだ。 
「ん?」 
いきなり目の前が暗くなったと思った瞬間、顔面をふさがれた。わぷっ!なんだこりゃ 
「きゃあああっ?!ジミぃなんでここに?!」 

す、菅谷?! 
いきなり人の顔に座りやがって、なに考えてんだ! 
「だってまさかいると思わなかったから」 
俺も菅谷がこんな時間にここにいるとは思わなかったぜ… 

1 お前もサボり?特待生なのにいけないなぁ 
2 早弁するつもりだったのか。それ以上太ってどうするんだ 
3 教室と間違えた?中2にもなってアホ丸出しアハハハハハハハハハ 



「お前もサボり?特待生なんだろ、真面目にやれよ」 
「…そっちはどうなの」 
「俺は劣等生だからさぼっても問題ない」 

はあー、と深いため息をついている菅谷。 
「なんだよ。呆れたか?」 
「ジミーは悩みなんかないんだろうなぁ。羨ましい」 
「失礼だなお前は本当に。俺だって人間なんだ、人並みに悩みだってあるよ」 
「…例えば?」 
「今日は誰といいことして過ごそうか、とかな」 

こいつまたため息ついた。仮にも二つ上の先輩に対して 
「…悩んでんのか?」 
鈍感な俺でもさすがに気付いた。菅谷の顔が曇ってることに… 
「ちょっと、ね」 

嘘だ。ちょっと、って感じはしないぞ。 

1 俺に話してみろ。少しは気が楽になるかもしれないぞ 
2 めんどいことはキライだ。話を変えよう 
3 …叫ばない?すっきりするぜ、な? 



「話してみろ。聞くよ、吐き出せば少しは気が楽になるよ」 
「………やだ」 
言いたくなさそうだ。菅谷の顔が嫌そうに歪む。 
「言ってくれよ。俺に言えない悩みなのか?」 
「ぜったい笑うから言いたくない!」 
「笑わない。真面目に聞くよ。だから…教えて」 
なだめる様に、なだめる様に。この娘は傷つきやすいから… 
神経だって繊細なんだ。すぐ泣いてしまうが、それを隠すように強気に振る舞っている。 

「…また太ったの」 
「は?悩みってそれ?」 
「うん…」 

そういう悩みだったのか。ん〜、んん〜〜〜〜 

1 痩せりゃいいじゃん 
2 俺は肉付きがいい娘の方がいいな、と抱き寄せる 
3 いかん笑いがこみあげてきた。いかん、いかーん! 



「俺は肉付きがいい子が好きだよ」 
「きゃあ!」 
嫌がる菅谷をちょっと強めに抱き寄せた。 
「こらぁ〜〜はなせぇ〜〜」 
「離さない。だってきもちいいから」 
最初はじたばた暴れてたけど、ついに観念したのかおとなしくなった。 

「…ねぇ」 
しばらくして不意に菅谷が顔をあげて 
「ちょっと抱いてて。私がいいって言うまで」 
わがままだな。自分の判断で俺の行動を決めるなんて。 
でも、さ 

そういうわがままなとこ、自分本位なとこ。キライじゃないぜ 
「動くなぁ!離しちゃだめ、いいって言うまで!」 

寂しかったんだな。誰かに抱き締めてもらいたかったんだな。 
菅谷は甘えん坊なくせに強がるからなかなか甘えられない 

…俺に甘えられるなら、気が済むまでこうしてていいよ。 
なんて、口では言えないよな。いつへそを曲げちゃうかわからないから 

1 もっと抱き締めてやる 
2 今度は俺に膝枕して 
3 …なぁ、どっかいかねー?二人だけで 



「今度は俺に膝枕して」 
「…………」 

試しに頼んでみたら急に不機嫌そうな顔になって 
「おいどこいくんだ!待てよ、おい!」 
ちょっと待ってくれ!頼んだだけでどうしてそんなに不機嫌になるんだよぉ 

「待てよ菅谷。聞いてるのか?待てったら、おいっ」 
俺の言葉に耳も貸さずにすたすたと下の階に通じる階段まで歩いていく… 
「もー待てって言ってるだろ菅谷!おい!おーい!」 

…無情にひびく、扉をしめる音。なんだよ、地雷踏んじゃったかな… 

1 今すぐ追い掛ける 
2 ほっといて寝る 



冗談じゃない。良かれと思ってやったのに不機嫌になるなんて 
いまならまだ間に合うはずだ、追い掛けないと。 
「まったくしょうがない奴だなあいつは。自分勝手なんだからなぁ」 
世話が焼ける奴だ。一緒にいたらやたらトラブルを呼び込む、口の聞き方は知らない 
今みたいにああやってすぐ不機嫌になる、とんでもない後輩。 
だけどさ…放っておくわけにはいかないだろ?! 
「菅谷〜〜〜〜!」 

さっきまで眠かったはすだが今はどうでもいい。早くあいつと仲直りしなきゃ 

¨バンッ¨ 
扉をあけて階段を勢い良く掛け降りようとした時、隣から声が聞こえた。 
「……くくっ、ぷ、くすくす」 
「……あ?」 
なんとそこにしゃがんでいたのは菅谷だった。 
あろうことかうつむいて笑うのをこらえている。 
「お前、いったいどうしてここに、ていうかなんで笑ってるんだ!!」 
「なんか必死だったね今!おかし〜、あんなジミー初めて見たよぉ」 
こいつ…不機嫌じゃない。さっきのあれはうそか? 

1 どういうつもりだこの野郎、返答しだいではその白い乳に赤い手形をつけるぞ 
2 何も言わずほっぺをむぎゅ!! 
3 しゃがんでるからパンツ見えてるぞこのしまパン 



「いたいいたいいたいはなして、いたいいたいいたい」 
何も言わずその白いほっぺをむぎゅっとつねる。 
俺は今とても機嫌が悪い。いくら人の機微がわからない菅谷とはいえ… 
「いたいいたいごめんなさい、もうやんないからゆるして 
「聞こえないな」 
「ほんとにごめんてばあ〜」 

このバカ野郎が。いったいどういうつもりだ。 
「驚くジミーが見たかったの。普通どおりじゃつまんないでしょ…」 
「お前といるときはむしろ普通どおりを希望するね」 

まったく、少しは退屈させてくれよな菅谷。 
お前といる時間はむしろたいくつなくらいが丁度いいんだから 

「桜ももう散りそうだね」 
「あ〜〜…」 
あくびまじりに答えると菅谷が俺のほっぺをつねった。 
「少しは嬉しそうにしたら?私の膝枕なんてなかなかしてもらえないんだゆ!」 
「…あまり喜ぶのも嘘臭いと思われそう」 
「ジミーってさ、意外と感情出すのヘタだよね」 

そうかぁ? 
…そうかもしれない。ほんとにここだって時じゃないと本心が言えないかもしれない。 
「お前と同じじゃないか菅谷」 
「はあ?私は素直だも〜ん」 

さっき人をびびらせるような真似したやつが何言ってんだか。 

「あのぉ……」 

言いにくそうに顔を赤くしている。 
「し、痺れるけど、重いけど、ほんとはしてやりたくないけど…膝枕…」 

…ふぅん、そうか。そうなんだな。 
「…まだしてやってもいいよ」 

消えそうなくらい小さな声でつぶやいたその顔は 

春の晴れ渡った空の色とは対照的な、夕焼けの色だった