バレンタインデー当日に調理実習、しかもチョコレートを作る、ってコトでクラス中が盛り上がってる。 みんな誰にあげるとか、どんなカタチにするかとかって談義してるんだもん。 みんな気が早いなぁ。 バレンタインデーはまだまだ2週間以上先なのに。 …ま、人のことは言えないかな。 気付いたら私の家庭科のノート、ハートの形だらけだ。 だって私も迷ってるから。どんなカタチのをあげようか。 ジミー先輩……。 …目を閉じて、ジミー先輩の笑顔を思い浮かべる。 せっかくだから、喜んでもらえるようなの、作りたいな…。 「あいりぃ〜〜!!いる〜〜〜!!!?」 授業終わりでまだざわついてる教室に響いた大きな声。 その声の主と、その声が呼んだのが私の名前だったから、2人にクラスの注目が集まった。 ちょ、ちょっと、恥ずかしいじゃん! ちょっぴり顔が赤くなった私とは違って、その子は気にするでもなく、まっすぐ私のほうへやってきた。 「いたいた、愛理」 「もう、大きな声出さないでよ、千聖」 「ごめんごめん、でもすぐ分かったでしょ?」 まったく悪びれてない様子の千聖。 「ねぇねぇ、今何か書いてたの隠したでしょ、何々?」 「なんでもないよ、今度の調理実習チョコレートだから、どんなの作ろうかって考えてただけ」 「えぇーいいなー、ちさとのところそういうのないしさ。ねぇ、すごい聞いてほしい話があるんだけど」 『言いたくてたまらない』って表情をしてる千聖。こうなると千聖は止まらない。 1 いいよ、何? 2 さっき千聖が叫んだせいでみんな注目してる。廊下行こう 3 こうなると千聖はうるさいからあえて今は聞かない 多分いつものことだから、休憩時間いっぱいずっと千聖の話しを聞くことになるんだろうな。 それは全然かまわないんだけど、今は視線が気になる。 さっき千聖が大きな声を上げて、そのまま私と話してるからクラス中が私たちに注目してる。 このままでもいいんだけど、ちょっと恥ずかしいかな。 「ねぇ、ちょっと廊下行こ」 「え?なんで?」 「千聖が大きな声で私の名前呼ぶからみんな見てるんだもん」 「そんな大きな声だったかなぁ…」 首を捻る千聖の手を引っ張って私は慌てて教室から出た。 「ごめんね、で、どうしたの?」 「あのねあのね、実はね…昨日ちさと、ジミー先輩とデートしちゃった♪」 「…ふぇ?」 あまりに驚いて、間抜けな声が出ちゃった。 「え!?何で!?どうしてそうなったの!?」 「ちょっと愛理落ち着いてよ!順番に話すから!」 思わず私も千聖と同じくらいのテンションと声の大きさになって千聖に詰め寄っていた。 1 珍しいね、千聖がコイバナって、と平静を装う 2 同じテンションのまま、詳しく聞く 3 聞きたくない、逃げる 落ち着け、落ち着いて。 千聖に私の気持ちが伝わらないように。 「や、あんまりびっくりしたから。だって千聖がコイバナって珍しいからさ」 だ、大丈夫?声とか震えてないよね? 「そう…かな、考えたら愛理とこういう話するのあんまりないからさ」 「そうだよ〜、しかもいきなりデートなんて言うからさ、いつの間にそんな進んでたわけ?」 何とか平静を装って会話を続けてるけど、本心では頭はパニックになる寸前だった。 「進んでたってその、違うよ、その、付き合ってるとかそういうんじゃないんだけど…」 千聖がジミー先輩にお願いして、憧れだった『先輩にエスコート』をしてもらったこと。 ジミー先輩は徳永先輩に『千聖とデートする許可』をもらってくれたこと。 ジミー先輩が千聖が喜ぶように、ってデートプランを考えてくれたこと。 二人で水族館デートしたこと。 デート中に、手を繋いだこと(しかも、ジミー先輩のほうから!) イルカショーでずぶ濡れになって、ハンカチを借りたこと。 ゴハンをご馳走になったこと。 次また遊んでもらう約束をしたこと。 正直、千聖とジミー先輩が付き合ってる、っていうんじゃなくて内心胸を撫で下ろしてる自分がいた。 千聖、長女だけどあんまりお姉ちゃんっぽくないっていうか、 妹キャラだから年上のお兄ちゃんお姉ちゃんに憧れてるのは知ってたけど…。 けど、ジミー先輩のことを話してる千聖の目があまりにキラキラしてて…。 …正直、怖い。千聖に、確認するのが。 1 「千聖は…ジミー先輩のこと、好きなの?」 2 「今度の約束って、何するの?」 3 「そんなことしてばっかりで、期末テスト大丈夫?」 多分、私はすごくずるい人間。 自分の気持ちを隠したまま、千聖の本心を探ろうとしてる。 聞くのが怖い、でも、聞きたい……。 「千聖は…ジミー先輩のこと、好きなの?」 「うぇぇ!?ちさと、ちさとは…… 1 多分、好きだと思う…」 2 やさしい先輩だけど、徳永先輩いるし無理だよ〜w」 3 ちさととじゃ釣り合わないもん、ジミー先輩にとってちさとは妹だよ」 カッコイイ先輩だけど、徳永先輩いるし無理だよ〜w」 そういってはにかむ千聖。 ジミー先輩のこと、かなり気になってるけど、まだ『先輩』なんだね。 私は、ずるい人間。 千聖の本心を知って、少し安心しちゃってるずるい人間。 千聖がお兄ちゃんお姉ちゃんに憧れるから、徳永先輩を乗り越える、なんてこと考えない子なのを知ってるから。 …少なくとも、今は、まだ。 「楽しかったんだ、いいなぁ…」 「でも愛理だってすぐカッコいい彼氏とかできるって!」 「え〜、私は無理だよ〜w」 だからこんなこと言っちゃうんだ。 キーンコーンカーンコーン 「あ、予鈴…」 「じゃあ、また何かあったら一番に愛理に言うからね!じゃあね〜!」 千聖はそのまま教室のほうに走って行ってしまった。 ダメだよ、廊下は走っちゃ…。 …いいなぁ、ジミー先輩とデート。 私もお願いしたら、連れてってくれるのかな…。 「愛理ぃ?何してるんだゆ?もうすぐ授業始まるゆ」 「あ、うん、ちょっとボーっとしてた」 ホントにボーっとしてたらしくて、いつの間にか梨沙子が目の前に来てるのにも気付かなかった。 「千聖が来てたって聞いたけど、何か用だったゆ?りーずっとチョコの絵描いてて気付かなかったゆ」 「うん、ちょっとおしゃべりしてた」 「ふーん…りーも千聖とお話したかったゆ」 「ごめんね、今度はちゃんと呼ぶから」 2人して並んで教室に入った。 「ねぇねぇ愛理、放課後、時間ってある?」 「え?うん、部活も今は忙しくないから少しなら」 「ちょっとりーの相談乗ってほしいゆ」 「なぁに?」 「それはまだ秘密だゆ、放課後まではね」 それだけ言って梨沙子は自分の席に戻ってしまった。相変わらずマイペースなんだから…。 放課後、相談ねぇ…。 まさかそのときは、千聖に続いて梨沙子まで恋のライバルになっちゃうなんて、私は思ってもいなかった。