今月に入って学校全体がばたばたと慌ただしい。 集会も増えたし、先生から卒業関係の話を聞くことも増えた。 なんか感慨深いなぁ…俺も卒業、このクラスとも学校ともお別れか。 今日も放課後である今から体育館で集会らしい。 なんでも誰か偉い人の講義があるんだそうな。 …正直とても面倒だぞ。 「ジミーっち!何をしてるんだねチミは!」 「なんだ、ちぃかよ…」 「早くしないとみんな行っちゃうよー」 「あぁ…」 ちぃはこう言ってるけど、どうしよう。 集会…なぁ。 1.ちぃには悪いがサボって帰ろう。やっぱり面倒だ 2.しょうがないし、ちぃもいるなら…出るか 3.おや、ちぃの後ろに須藤さんが見える… …しょうがないか。 「わかったよ、今行く」 「はやくしなよー?ちぃはまぁを待たせてるから先に行ってるから」 「あぁ」 俺に念を押すとちぃはパタパタと教室から出て行ってしまった。 他のみんなもいつの間にかいなくなっていて、俺一人。 掲示物がはがされかけている教室を見るとますます卒業って感じがしてきたなぁ… 思えば、いろいろあったよな。本当に。三年になってから。 最初は地味なだけだった俺なのに、いろんな人に今は囲まれて。 「はやいなぁ…」 「何が?」 突然後ろで声がしたから驚いて振り返ると…そこには雅ちゃんが。 ちょっと息を切らしているところを見ると、走ってきたらしい。 「み、雅ちゃん。忘れ物?」 「あ、う、うん…ちょっと、ね」 ゆっくりと俺の後ろである自分の席に座る雅ちゃん。急ぐ気はなさそうだ。 「ねぇ、何がはやいの?」 「月日が経つの、かな」 「あぁ…もう卒業だもんね」 思いつめた表情で自分の机を撫でる雅ちゃん。そういえば俺、雅ちゃんの進路を知らないなぁ。 1.雅ちゃん、どこの高校行くの?と普通に聞く 2.今は聞かなくてもいいか 3.それよりも集会行かなきゃ… 「雅ちゃんってさ、どこの高校受けるの?」 「え?」 「そういえば聞いてなかったからさ」 「あああああ、うん。言ってなかったね」 焦ったようにがばっと顔をあげて、俺に視線を合わせてくる雅ちゃん。すぐにそらしちゃったけど。 視線をゆっくり窓に向けると、下の方にぞろぞろと体育館に入っていく三年の姿が見えた。 …あ、ちぃと須藤さんだ。 目が合うかなと思ってみていると、案の定ちぃと目があった。 手を振ってみると振り返してくれた。でもなんだろう、横の須藤さんが少し複雑そうな顔をしている。 どうしたんだろう? 「ねぇ、ジミー君…」 「ん?」 窓に意識を集中していたら横から声がした。そうだ、雅ちゃんだ。 俺は横に座って雅ちゃんの方を見る。横目で目が合って、少しだけ照れた。 雅ちゃんは須藤さんと同じく複雑そうな表情を浮かべて俺を見ている。 なんなんだろう、一体… 「まぁ、いいじゃない。私がどこ受けても」 「んー、俺は気になるけど。まぁ言いたくないならいいし」 「…今度ね。こんど」 「うん」 …気まずい。 無言が教室を支配する。遠くで誰のものかわからない足音がなっている。 雅ちゃんは何を考えているのだろうか。なんで今ここにいるんだろう。 1.まずは話さなきゃ。思い出話でも! 2.最初は雅ちゃんが好きだった話、詳しくしとくか。 3.そろそろ集会… なんとなく、真面目な雰囲気だから。 雅ちゃんと二人で話す機会っていうのも滅多に…というか、クリスマス以来だしな。 「俺、さぁ。最初は雅ちゃんが好きだったって話。したじゃん?」 「…うん」 「声かける時もさ、苗字も読めないし。ビビっちゃって。大変だったよ」 「そう、なんだ…」 「初めて途中まで一緒に帰った時も緊張したし」 あの時のことを思い出すと、少しだけ懐かしい。戻りたいとは思わないけど。 正真正銘のジミーだった俺と、高値の花だと思っていた雅ちゃん。 今はこんな風に二人で話すことができるし、笑い合うことができる。 …昔になんて、戻りたいとも思わない。 「今、雅ちゃんとこうして話せてるのってそう考えるとすごいよな」 「…本当にそう思う?」 「うん。雅ちゃんはずっと、遠い存在だと思ってたから」 薄く笑いを浮かべたまま雅ちゃんを見る。 雅ちゃんは俺と視線を合わせることなく、細い溜息をついた。 そのため息は何を意味しているんだろうか? 「クリスマスのときだって…」 「…ねぇ」 俺の言葉を遮るように、雅ちゃんが言葉を発する。 喧騒はもう聞こえない。目の前で雅ちゃんが俺を見つめてくる。 …やばい。やっぱり綺麗な顔してるよな、雅ちゃんって… 1.でも理性。平然と何?って聞かなきゃいけないだろ。 2.やばい引き寄せられる…キス、したい。 3.…ん?誰かの視線が… すぐそばにはうっすらとグロスを塗られた雅ちゃんの唇がある。 ダメ、だ。とは思う。けど、どうしてもそこばかり見てしまうし、惹かれてしまう。 甲斐性がない、といったらそこまでだけど、男なんてそんなもんだ。 「…やだ」 「え、」 「近いし…したくない」 気付かない間に俺は雅ちゃんに近づいてしまっていたようだ。 雅ちゃんは顔を伏せ、俺の肩を押す。あからさまな拒否反応だった。 「そっか…」 …地味に凹んだ。俺。 今までみんなが優しかったっていうのもあるけど、拒否されたのはあまりにも久し振りで。 「そんな顔しないでよ…」 「いや、その…ごめん」 「だってさ。私、結局返事聞いてないんだもん」 「返事?」 「お正月の時の…」 「あ…」 そうだった。 あの時俺は確かに雅ちゃんに告白されて、そのまま…なにもしていない。 …これってひどくないか?やばくないか? 1.ごごごごめん!と土下座。 2.泣いてわびる。 3.誠実にいくしかない。真面目にいこう。 「えっと、ごめん」 「…」 「本当にごめん。雅ちゃん。俺、雅ちゃんの気持ちとか考えてなくて…」 「考えてもくれなかった?私のことなんて…」 ふいっと悲しそうな目を俺に向ける雅ちゃん。まずったな。やばいこといったぞ。 遠くから聞こえていた音もなくなって、集会は始まってしまったようだ。 俺は慌てた様子を抑えて出来る限り真剣な顔を雅ちゃんに向ける。 雅ちゃんのことを考えなかったっていうことはないんだ。 「そんなこと、ないから」 「うそだぁ…」 「嘘じゃないって。そりゃ俺、いろんな子とばかり話してたけどさ」 「うん…」 「でも、雅ちゃんのこと。ちゃんと考えてたから」 そっと、机の上に置かれていた手を握る。びくっと動く雅ちゃんごと。 そこにいる雅ちゃんが消えてしまいそうだったから。 二人しかいない教室がゆっくりと温まっていくのを感じた。 「じゃあ聞かせてくれる?」 「…ん?」 「どんな結果でも構わないから。ちゃんと、聞きたいよ…」 「…」 「そりゃ、一回でもいいから報われたいけどさ」 そんな顔して笑わないでくれよ。誠実で真っ直ぐな気持ちを俺に向けてくれる雅ちゃん。 一番最初に好きになった人。俺の気持ちは… 1.俺、こんなやつだけど…でもやっぱり好きだ。ずっと前から。 2.…ごめん。ちぃが… 3.優柔不断な俺でもいいですか? 「…優柔不断な俺でもいいですか?」 「え?」 逆に聞いてみたくなる。俺は優柔不断だし、いいところもそこまでないから。 ちぃや熊井ちゃんが今まで好きだと言ってくれたけど。 でもそこまで俺に魅力があるとはどうも思えない。 「だから優柔不断な…」 「それはわかるけど、でもそれって…」 「ん?」 「なんでもない。優柔不断でも、いいんだ」 雅ちゃんは俺の手をやんわりと外すといきなり立ち上がり、俺を抱きしめた。 突然だから心臓がとんでもない勢いで動くぞ、おいおいおい。まじかよ。 俺は椅子に座ってるからちょうど俺の頭を抱きしめるみたいに雅ちゃんは俺を包みこむ。 直接感じることのできる雅ちゃんの心臓の速さが、俺と同じなんだって思った。 …緊張、してる? 「優柔不断でも…ろくでなしでも。好き、だから」 「…うん。ありがとう」 「だから聞かせて?あなたの答え…」 雅ちゃん… 1.ダメだ、わからない。はぐらかすように立ち上がって抱きしめ返す。 2.好きだと伝えてキス。 3.やっぱり…ごめん。 ちゃんといわなきゃいけないんだ。もう、俺の中学生活も終わっちゃうから。 伝えなければ始まらない。だからあの時は何も始まらなかった。 「雅ちゃん…」 「…はい」 俺は立ち上がると、雅ちゃんを見下げる位置まで上がる。 雅ちゃんは俺を抱きしめていた手を解いて、そっと目を閉じた。俺からの答えを待っているようだ。 俺の答えは…もしかしたら、ずっと前から決まっていたのかもしれない。 「ずっと前から。好きでした」 「…え?」 「中三のはじめから。雅ちゃんが好きだ」 思わぬ回答だったのだろうか。雅ちゃんが慌てて目を開けようとする。 それをそっと手でもう一度覆い隠すと、俺は雅ちゃんにキスをした。 触れるだけだけど、ドキドキして。雅ちゃんの熱が体に入り込んでくる。 誰が見てるかもわからないけど、でもそんなのは関係なかった。今は雅ちゃんの想いに答えてあげたい。 「え、ええええ!?」 「何そんなに驚いてるのさ」 「だって、好きって…今だって、き、き、」 顔を真っ赤にしてどもる雅ちゃんが可愛くて、俺は雅ちゃんの頭を抱えるようにぎゅっと抱きしめた。 そんな俺に雅ちゃんは… 1.「あなたの彼女だといいたいです」 2.「…もう一回。キス…」 3.「ねぇ、後ろから誰か見てる…」 「あなたの彼女だって、いいたい」 きゅっと俺の制服の胸の部分を握る雅ちゃん。 声が若干震えていて、俺が守ってやりたいって思った。 「うん、いってよ」 「いいの?」 「こんなかわいい彼女なら大歓迎。でも彼氏はこんなだよ?」 「いいの。こんながいいんだから」 雅ちゃんが下から見上げるように俺に笑いかける。クラス一の笑顔がそこにあった。 ずっと憧れつづけた笑顔に、最後の最後でこんなに近付けたなんて夢みたいだった。 未だ誰も来ない教室、俺たちは抱き合ったまま。 「しあわせ」 「…うん」 「絶対ダメだと思ったのに」 「もういいじゃん、それは」 至近距離でくすくすと笑い合って、おでこをくっつけて。 今まで関わる時間が短かったことを埋めるように、俺たちはくっついてたくさんのことを話した。 「離れないで、そばにいてくれる?」 「離さないで、そばにいるよ」 そういって少し長めに口づけた。 温かい雅ちゃんの唇は、やみつきになりそうだ。 結局集会に出なくてちぃにはひどく怒られたけど、何とか適当に理由をつけて乗り切った。 見えないところで雅ちゃんと繋がれた手が、俺の心を幸せにさせた。 これから絶対、この手を守っていくよ。