頼まれものの買出しに街へ繰り出す おかし、なんてひらがなで文字が大きく書いてあるのはきっと、あの子たちの誰かが書いたんだろう あえて誰とは言わないけど 数日前までクリスマスムード一色だった街は、あっという間に街中の模様替えがなされていた クリスマス気分から一転、年末ムードって感じだな 赤と白がやけに目立つし…もう今年も終わりなんだと今更実感する俺 今から紅白のリハとかあるしな、我が子たちも忙しくなるぞ …そういえば昔、このくらいの時にまだクリスマスモードだったことがあったような 今、こんなところで思い出したけど… 1.ラーメン屋の前、あの時一緒だったのは確か菅谷 2.パーティから数日後、スーパーにみやびちゃんと 3.ケーキバイキング、桃子先輩… 4.不機嫌な熊井ちゃんを乗せて、大きな木の下まで 5.服屋の前で偶然愛理ちゃんに会ったあの日 6.映画館、そういえば矢島先輩に無理矢理渡されたよな… 7.ちょっと高そうなレストランで、梅田先輩にリベンジだっけ 8.化粧品のコーナーっているだけでも恥ずかしいのに、舞ちゃんが 9.…あれ?何か大切な人と大事なことを忘れてるぞ? そうか、あの時は菅谷と一緒だったんだっけ あの不良との一件以来、前よりはまともに話すようになった菅谷 向こうも俺をただの変態から普通の先輩くらいまでには見るようになったと思う 「ジミー、早くするゆー!」 「あー、はいはい今行きますよー」 俺と菅谷はこの寒い中ラーメン屋の前で開店待ちしている この前須藤さんと愛理ちゃんと食べにいってから、ラーメンにハマっているらしい 終業式の前に捕まって、無理やり連れてこられた …無理やりしなくても、普通に誘えばいいのに 変なところツンツンしてるよな、菅谷は 「な、なんだゆ。ジミー、あんまり見ないでよ」 …おっと、ぼーっとしてたらいつの間にか菅谷をガン見してたみたいだぞ 1.ごめんごめん。菅谷の顔、綺麗だからさ 2.ただぼーっとしてただけだよ、うぬぼれんな! 3.あ、髪にゴミついてるよ。と出まかせ。手を伸ばす 「み、見てねぇよ別に!」 「うそだー、今りーのこと見てたもん絶対!」 あの頃は俺もうぶだったからな、素直に言えないことがいっぱいあったんだよ …綺麗とか可愛いとかって特に。なんか恥ずかしくて 「あああ、菅谷髪にゴミついてるよ!」 だから焦ってついてもいないゴミに手を伸ばす訳で …それが自然に菅谷に触れる行為になっちゃってるのに 「え?どこー?とって」 「え、えっと…ここ!」 適当に菅谷の髪に手を伸ばす 少し茶色がかっていて、つやつやした俺のとは質感から違うそれ 触る直前に自分のしようとしてることに少しだけ緊張して躊躇したけど、菅谷は気にしてない様子だから一気に踏み込んだ そっと。そしてゆっくりと髪の毛を梳く。さらさらして、女の子特有のいい匂いがした なんか気持ちいいな。ずっと触っていたいくらいだ 「…じみー、とれたぁ?」 「あああっと、とれたよ!ごめん、なんか菅谷の髪気持よくて」 咄嗟に俺の口を出た、別に言うつもりもなかった本音。これを聞いた菅谷は… 1.顔真っ赤、無言で俯いちゃったよ 2.顔真っ赤にして「ジミーのくせになにいってるんだゆ!」と憤慨 3.だったらもっと触ってて、と俺の手を自分の頭に運ぶ その瞬間の無言、俺は一瞬自分の口を出た言葉を後悔した 「す、菅谷?」 「…」 「お、おーい」 「…」 菅谷はいきなり俯いて、俺の言葉にも反応してくれなくなってしまった 髪の隙間から覗く耳は真っ赤で、今の菅谷の顔色が測れる …こいつ、照れてるのか 普段の傲慢な態度が嘘みたいだ、今日の…いや、最近の菅谷は こんなことで照れられると俺も照れるぞ、どうしたらいいのかわからなくなる ラーメン屋の前、行列の中の無言。周りの視線が少し痛い これから食べるラーメンもまずくなるぞ …それ以前に、せっかくの菅谷との二人の時間。こんな形でも楽しみたい とりあえずなんか話題を変えるか 「あ、あのさ… 1.なんか最近俺に優しくない?」顔色を伺いつつ 2.なんかしゃべってくれよ、お願いだから…」半泣きで 3.こんなんじゃ面白くねぇじゃんか、一緒にいても」溜息まじり 4.こ、今度は須藤さんや愛理ちゃんも誘ってこような」おどおど 「あ、あのさ…菅谷、最近俺に優しくない?」 「えっ!?」 がばっと顔をあげる菅谷。赤みのさした頬に思わずどきっとする 元々菅谷は色白だから今日みたいな寒い日は頬が赤くなって…可愛いんだけど それとは違う、赤みのさし方 な、なんだろう。菅谷ってこんなに美少女だったっけ?今更かな こんな子と外出歩ってると思うと…俺でいいのかななんて思ってみたり 外見だけでも萩原くらいかっこ良かったらいいんだけどな 「や、優しくなんかないもん!ジミーなんかに!絶対!ぜーったいないもん!」 「ちょ、そこまで言わなくても…」 「絶対ないもん!こんなのに!ジミーなんかに!ジミーのバカ!」 「だからそこまで言わなくても…」 テンパってるみたいに菅谷があばばばばと捲し立てる あー、ただでさえ落ち込んでるのにさ。気にしてるのに 確かに菅谷は俺と一緒にいるのがもったいないくらいの子だけど…そんな言い方って 1.結局、何か泣きそうなんだよ俺って 2.ジミーポジティブ!これからこれから! 3.もういいや、菅谷なんて。俺には他にもいろんな子が… こういうときって、俺の悪い癖だけどいつもマイナスなことばかり頭をよぎる 目の前にいるのは…今は菅谷なのに 別に菅谷以外の子がいるって、俺には。ちぃだって、みやびちゃんだって、熊井ちゃんだって その他にも、いっぱいいるんだ そう自分に言い聞かせて、俯いた。なんだか菅谷を見るのさえ、苦しかったから 「…ジミー?どうしたんだゆ?」 「……別に、いいもん。俺には他にもいっぱいいるもん」 「…えっ?」 「俺なんかじゃ菅谷に釣り合わないよな、ごめん」 「ちょっと」 「この店は今度、須藤さんとか愛理ちゃんとか連れてまたこよう。俺と二人なんかじゃ…」 …あー、俺性格悪い 言いたいことなんてなかった。ただ、ウジウジしてただけだ 菅谷は俺より年下なのに、俺の方が拗ねて。馬鹿みたいだ だけど今更ひくのもなんかアレだしな 俺は俯いてるから、菅谷の表情は見えなかった 瞬間、にゅっと俺の目の前に真っ白い腕が伸びてきた そしてそれは俺の頬を包んで、ぐいっと持ち上げる …菅谷 1.「絶対ママと愛理と一緒じゃやだ!」 2.「何でそういうこというのぉ…ばかじみー…」 3.「…この間はかっこ良かったのに」 菅谷は目にいっぱい涙を溜めていた そうさせてるのはきっと俺で…罪悪感。菅谷から目をそらした 「…ばかじみー」 「ごめん…」 「なんでそういうこというのぉ…」 「だって…」 「りーはじみーと一緒がよかったのに、じみーはいやなんだぁ…」 「ち、違うけど…菅谷にはもっと」 「じみーがいいんだもん。二人がよかったんだもん」 自然と向けた視線の先で、菅谷はぽろぽろと涙を零していた 菅谷にいつも馬鹿にされていた俺。絶対に嫌われてると思ってた でも今、菅谷は俺を想ってきっと泣いている 勘違いとかうぬぼれとかじゃなくてそう思った 「…じみー…なんかいってよぉ」 「あぇ!?」 「りーのこと、きらいなんだぁ…」 や、やばいぞ、また菅谷の目に涙が… 1.泣きやめよと手を握り、ほっぺにキス 2.泣かないでと頭をなでて髪を梳く 3.思いっきり泣けとぐっと肩を抱き、腕の中に… 「菅谷…泣かないで?」 菅谷に泣かれると俺もなんか泣きたくなる 俺は片手で小さく握りこぶしを作ると、逆の手でゆっくりと菅谷の頭に触れた 菅谷は一瞬びくんと震えると俺の頬に添えていた手を下した 「泣かないでよ…」 指の間に髪を通していく するすると、水が流れるように指の間を髪がすり抜けていった 頭を撫でていくように優しく、菅谷が泣きやむように 今、目の前にいるのは菅谷なんだから 「…ジミー、くすぐったい」 「いいだろ、別に。こういうときくらい」 「うん。いいよ。気持ちいい」 目を細める菅谷が、身長はそんな変わらないのに小動物みたいに見えて 「菅谷、かわいいなぁ…」 「い、いきなり何言い出すんだゆ!」 「あ、素で言葉が出てきた」 ぷうっと頬を膨らます菅谷、やっぱり年下だな。そういうところも可愛く見える 二人で笑い合っていると、周りの人からの口笛が あ、ここラーメン屋の前だったっけ 顔を見合せて、二人で真っ赤に。撫でていた手を止めると、菅谷が耳打ちしてきた 「じみーのことすきだから。りーのことも見てほしいゆ」 …その後食べたラーメンの味なんて覚えちゃいないけど、いい思い出だったな 菅谷のこと、ちゃんと見るいい機会になったし 俺の手のビニール袋の中にはお菓子がいっぱいだ その中にこっそりカップラーメンも潜ませておく 梨沙子が食べてくれればいいと、少しだけ思った …でも、おかしって大きくひらがなで書いたのは…梨沙子なんだけどな まぁ、そこは内緒にしておこう