「母さん、もうちょっとで病院だから」 
「・・・うん」 

自分の膝にのせた愛犬をいたわるように撫でる母さん 
この日、俺は仕事から帰宅してすぐに母さんから電話をもらった 
あっ、この前のプレイよすぎてまたやりたいのか、とキュフフと電話にでると予想外のものだった 
開口一番、「あなた、助けて」といわれ、俺は大慌ててで母さんの家にかけつけた 
母さん、何かあったのか・・・もしや、強盗事件にまきこまれ、いやいや強姦・・・ 
そんなの考えたくもない 

「母さん!!大丈夫か」 
「あなた、この子が・・・私の子が・・・大変なの」 

え〜マジで母さん産んじゃったの〜と別の心配も胸をよぎったが、母さんが抱いていたのは愛犬だった 
みるからに様子がおかしく、ぐったりしている 
これはヤバイということで俺と母さんは動物病院へ向かっている途中なのだ 

「大丈夫、母さんと俺の子だし丈夫だよ。先生にみてもらえばすぐに治るって」 
「そうね、この子すぐに治るわよね、あなた」 

こんなに弱弱しい雰囲気の母さんをみるのは初めてだ 
すごい大事にしてるっていってたしな 
そういや、須藤さんと初めて仲直りというか信じてもらえるようになったのはあの事件以来だったな 
その時もやっぱり動物が鍵を握っていたんだ 


俺は萩原と仲良くなる前、実は友達らしい人間は誰もこの学校にはいなかった 
ぶっちゃけ俺の友達は飼育小屋で元気にとびはねるコイツしかいなかった 

「お〜今日も元気っすね、岡村さん」 

うさぎのくせにサルっぽい顔してる気がするので何となくこう呼んでいる 
岡村さん、今日も人参をうまそうに食べてるな〜 
可愛いな〜でも、下手に手を近づけると前歯で攻撃されるんだよな 

「岡村さん、またまた♀にフラれたんすね・・・」 

岡村さんも俺も彼女にフラれ、傷心の日々が続いていた 
だからそんな俺たちだからこそわかりあえると思ってたのだが、今日は機嫌悪いな 

「あたっ・・・攻撃しないでくださいよ」 
「余計なこというからじゃないの?」 

うわっ・・・びっくりした〜 
って、須藤さんが俺の背後にどこからともなく湧いて出た 

1 余計なことなんていってないもんねぇ 
2 ぎゃあああ!!! うさぎの糞ふんでじまった 
3 何もここまで監視しなくても 



今は俺と岡村さんの大事な時間なんだ 
そこに割って入ってくるなんてあんまりだ 

「な、何もここまで監視しなくても・・・」 
「監視ってわけじゃないから安心して。今日もきてるんだと思って感心してるだけだから」 
「今日もってことは前にもみたってこと?」 
「そう、飼育小屋でうさぎ相手にブツブツしゃべってるあなたを見るのはこれで何度めかわからないくらい」 

俺が毎日、飼育小屋にきてるってことはあの萩原にもいってないはずだ 
それを何でこの須藤さんが知ってるんだ? 
しかも何度目かわからないくらいみてるって・・・ 

1 あっ、もしかして俺に興味ありあり?w 
2 須藤さんって家政婦が向いてるよw 
3 どうしてそんなことを? 



ジミーコンピューターがポンと答えをはじきだす 
はっ、こいつぅ〜俺のことを好きだったか〜 
そうか、さらにコンピューターは高速で答えをはじきだした 
だから、今まで俺の監視なんて名目でついてきてたのか 
あはっ、ちぃにみやびちゃんに須藤さん 
なぁんだ、自分のクラスの女手当たり次第に食えちゃうじゃん 

「あっ、もしかして俺に興味ありあり?w」 
「馬鹿なこといわないで。私は萩原君にフラれたばかりなんですから」 
「萩原はダミーで実は俺のことを」 
「はい、おかしなことをいってるのはこの口かしら?」 

あたたたた、口がちぎれちゃう・・・ 
や、や、やめないで〜ちょっと気持ちいいかもぉ〜 
最近、須藤さんに暴力ふられるの好きかもw 

「なななして俺がここによく来るって知ってるの?」 
「あなたが本当に地味な存在でジミーと呼ばれたときから知ってます。偶然みたのよ、あなたをここで」 
「で、偶然といいつつ何度もあなたさまもここ来てるようですが」 
「それはね・・・」 
「まって、その先はこうだ 

1 やっぱ俺のことが好きなんだろ、えぇw 
2 す、ストーカー!? 
3 食欲旺盛だしうさぎを食おうとか? 



あ、やっぱ俺のこと好きなんだろ、ええw」 
「って、あんたに学習能力はあるのかしら?」 

あたたたたたた、唇が唇が・・・きれちゃったんですけど 

「わかったわかった。本当はす、ストーカーなんでしょ。俺の」 
「さっきよりも酷いこといってくれちゃってんじゃない?誰が好き好んであんたのことを」 

おほっ、口がもげちゃう 

「す、す、すいません・・・須藤さん、次で当ててみせるから」 
「はぁ〜い、よい子のジミー君が三度目の正直ってわけね。どうぞ」 
「君がいつも食べる昼食の量は半端ない。だが、いつからかそれが減ったと聞く」 
「つまり?」 
「お腹減らしてうさぎを食おうってわけだね?」 
「あんた、マジでいっぺん死んでくる?」 

ぐほっ・・・いいパンチだぜ、あんた 
これなら世界チャンピオンも目じゃない・・・ 

「本当はね、私もここで飼ってるうさぎがいっつも病弱で心配してたの。で、そのたびにあなたがいたってわけ」 
「そうだったんだ・・・最初からそういってよ」 
「あんたが勝手におかしなこといってたんでしょ」 

そうだったか、須藤さんもここのうさぎの面倒みてたんだ 
で、今日は何にしたんだろう 

1 またもや偶然? 
2 今回は俺の監視? 
3 手にもってるのはフォーク やっぱり・・・ 



「今日はどうしたの?」 
「偶然よ、偶然。あなたが可愛がってるうさぎのお友達のこの子、最近元気ないの」 
「こいつか」 

みれば、岡村さんの隣のうさぎがぐったりしている 
衰弱しきってるな・・・ 
俺、岡村さんばっかりみてて気づかなかったよ 

「最近だとろくに餌も食べてないみたいでね。先生にも様子みてってお願いしたんだけど」 

須藤さんは衰弱したうさぎを抱き上げ、膝にのせて背中をとても優しそうにさすった 
その目は俺に殺意や敵意をみせているときとは違って、慈悲に満ち溢れていた 
そう、須藤さんも母さんと一緒で皆から母親のように慕われていた 

「その子、大丈夫かな?ちょっと危なくないか」 
「馬鹿いわないで。まだ助かるかもしれないでしょ」 
「でも、先生とかにいっても無駄だったんだろ?」 
「じゃあ見捨てろっていいたいの」 

そんなこと言うつもりは毛頭ないけど、でも俺たちにできることってなんだ? 
餌やって遊び相手になるくらいじゃないか 
しかし、こんなにも苦しんでる動物ほっておけないしな 
須藤さんも心配して涙をにじませている 

1 俺たちで病院へ連れていこう 
2 やっぱり先生にいったほうがいい 
3 何もできることないよ、見守っていよう 



ちぃが好きな言葉がふと思い出された 
思い立ったら吉でっせ、だ 
先生が頼りにならないなら、ここは俺たちで病院に連れていくしかない 

「須藤さん、俺たちで病院へ連れていこう。そうしよう」 
「そんなこといっても学校から近い動物病院ってなかったと思うけど」 
「時間がたてばたつほど、そのうさぎだって危ないよ」 
「そうね、あなたの言うとおり、病院へいったほうがいいかも」 

自分の子供でもみるような母親みたいだな、須藤さん 
本当にそいつのことが心配なのだな 
俺も弟のように可愛がっていた愛犬のことを思い出していた 
苦しんでるあいつを助けてあげられなくて、今でも後悔している 

「今度はうちの弟みたいな思いはさせないからな」 

下手に揺れる自転車ではうさぎの容態は悪化するだろう 
そうなると無意味に寿命を縮めるだけだ 
交通手段はどうする 

1 歩きでいくか 
2 遠くてもバス停でバスがくるのをまつ 
3 やっぱ自転車に頼るしかないのか・・・ 



「揺れるけど、ここは自転車に乗せていこう。かごに毛布とかいれてさ」 

俺はもういつになく真剣な目で須藤さんに訴えた 
気持ちばかりが焦って冷静になっていなかったのかもしれない 
今にして思えば、自転車でバス停までいって街中までいけばよかったと思いつく 
だけど、この時の俺にはそんなことまで考えられていなかった 
須藤さんもそこは同じだったみたいだ 

「わかった、この子も病院まで頑張ってくれると思う」 
「うん、信じよう。絶対に大丈夫だって」 

俺は須藤さんを後ろにのせて走り出した 
同じクラスの子3人はこれで全員乗せたことになるな 
全部状況がまるっきり違うのが驚きだが 

「ちょっと〜ジミー君、あんた遅いよ。これじゃこの子が病院までもつか」 
「そんなこといっても俺は全力だ」 
「早く!!」 

そんなにプッレッシャーを与えないでくれ、こっちも限界だ 

1 須藤さん、太った?w 
2 須藤さんと交代 
3 俺はまだ本気じゃなかったと思いたい 



「そこまでいうなら俺と交代してくれ〜」 
「ったく、男のくせに体力なさすぎ。わかった、後ろ乗って。じゃあいくよ」 
「ちょwwwうっひゃああああああ!!!!」 

早い、俺のときの何倍も早い 
流れていく景色が新幹線並みだ 
最初から男だからやるじゃなくて体力自慢なこの人にまかせればよかった 
俺が女の子みたいに須藤さんの身体に腕まわして掴まってるんだが、ぷにぷにしてんな 
抱き心地がよすぎる 
あ、眠っちゃいそう 
何か話しかけて気を紛らわそう 

1 や、やわらけぇ〜ぷにぷにしてるwww 
2 頑張って!! 
3 もういいや、眠っちゃおう  



うわあ〜やわらけぇ〜抱き枕よりやわらかいんじゃねぇか 
うちの母親の背中をこうして抱きついたときを思い出すな 

「お母さん〜」 
「はぁ?あんた、何いってんの」 
「お母さん〜俺のお母さん」 
「ちょ、馬鹿なこといってないで。あんた、この状況でよくそんなこといえるわね」 
「だって、やわらかいんだもん〜ぷにぷにしてんだよwwぷにぷに」 
「ぷにぷにってさっきから妙にくっついてるなと思ってたら、あんたって人は」 
「お母さんみたいなんだもん」 
「もんってあんたは中学生なんだからぶりっ子してるんじゃないわよ。桃子って先輩のまね?」 
「まさか〜俺がついそう言ってるだけw」 

ん?どうしたどうした 
いきなり急停車したぞ、まだ街中まで距離あるんすけど 

「おりて」 
「何で?」 
「いいから」 

拒絶を許さない、そんな顔っすね 
アシュラ再来の悪寒・・・おかんだけにねw 
ぶべら・・・ 

「ふぅ〜すっきりした。いいから後ろ乗りなさい。ただし、しゃべんな」 
「はい」 

そして、俺たちはようやく病院までたどりついた 
須藤さんは身体中汗をだらだら流していて、疲労が隠せない様子 
それにひきかえ、俺はボロボロだ・・・理由は聞くなよ 

「先生、この子助かりますか?」 
「まだわからないね。診察してみないと。まぁ受付のところで待ってて」 

須藤さんは先生に泣きついてうさぎの容態を尋ねた 
もちろん俺もあいつの容態が気にならないわけがない 
俺たちは無言となった 
うさぎのことで頭がいっぱいだろうし、相手にされるかちょっとな 

「大丈夫、きっと助けてくれるさ。須藤さんのお祈りも通じるよ」 
「うん、先生が助けてくれるって願うことしかできないのね、私たち」 

とてもそのことが空しそうに呟いた 
無力ってこういうときに思い知らされるんだな 
お祈りをするようにしている須藤さんを元気づけてあげなきゃ 

1 ぷにぷにwww 
2 ケーキが2個しか食えないとかって噂、嘘だろ?www 
3 そっと手を握り締める 



考えるよりも先に俺は自分の手を須藤さんの手の上に重ねていた 
それに対して拒否してくるといったことはなく、須藤さんのほうから握ってくれた 
とても温かい体温が伝わってきたが、それ以上に汗ばんだ手に驚いた 
確かにうさぎの奴も余談を許さない状況だけに緊張しっぱなしなんだろう 

「元気になって、またあの飼育小屋をぴょんぴょんはねてくれるよ」 
「そうね、きっとあの子なら平気よね」 
「そうそう、根拠なんていらないんだ。ただ信じてあげることが大事だよ」 
「ふっ、まさかあなたから元気づけられるとは思ってなかったな」 
「こんなことしか俺にはできないからさ」 
「ありがとう」 

小さい声で確かに彼女はそういっていた気がする 
はっきりとは聞き取れなかったから今となっては自信ないけど 


そして、現在は・・・母さんの愛犬の診察が始まっていた 

「で、うさぎはどうなったの?」 
「あぁ、あいつか。須藤さんも俺も元気になって帰ってきてくれると思ってたんだけどな」 
「そっか。残念だったね」 
「うん。でもさ、おかげで俺は須藤さんのお母さんみたいな優しさを知ることができたんだ」 
「どういうこと?」 



「残念だけど」 

先生は簡潔に死んだという言葉を抜きにうさぎの死を知らせた 
続きなんか聞かなくたって俺たちはそれだけで結果がわかってしまっていた 
病院を出たなきがらを抱えて学校まで帰るとき、俺は涙をだらだら流した 
たぶん、俺以上に悲しかったのは須藤さんのはずなのに彼女は泣かなかった 

「ほら、泣くのやめて。ね、元気だそ」 
「俺がいけなかったんだ。馬鹿なこといって途中とまったりするから」 
「自分を責めないで。責めたってこの子が生き返るわけじゃないんだから」 
「俺、自分ちの犬が死んだとき、目の前で何もしてやれなかった・・・だから、こいつだけはと思ってた。 
だけど、俺はこいつを死なせてしまった・・・くそっ・・・」 
「何もしてやれなかったってことないじゃない。助けようとしてくれたでしょ。この子はあなたに感謝してるわよ」 
「ううん、俺がぷにぷになんて言わなければ・・・くそっ」 

俺は自分が激しく許せなくなり、何度も何度も頭を叩いた 
むしろ、すいかみたいに叩き割ってやりたいくらいだった 
そんな俺を須藤さんは何もいわずにぎゅっと抱きしめてくれた 

「あなたは悪くないよ。ね」 
「うぅぅ・・・すどうさん・・・」 

須藤さんは俺が泣き止むまでずっと抱きしめてくれた 
温かくて包まれている感覚で満たされた 
この日以来、須藤さんの接し方が以前のように戻った気がした 



再び、現在 

診察を終えた先生が俺と母さんの前に犬を抱いて現れたのはちょうど話が終わった後だった 

「先生、大丈夫ですか?」 
「ふっ、心配いらないよ。この子なら、ただの食べすぎだよ。ご主人に似たのかな?」 

先生は苦笑気味に犬の様子を教えてくれた 

「た、食べすぎかよ・・・」 

俺は拍子抜けしてその場に座り込んでしまった 
緊張の糸がきれたのだ 
ははは、何にせよ、無事でよかったな 

「母さん、その子にもいっておいて。ご主人ともども食べすぎはご用心だって」 

次の瞬間、母さんの愛ある一発がおみまいされたのはいうまでもない 


从o゚ー゚从<見直したわジミー君